ゾーン訓練
インターバル訓練
LSD訓練
パワー訓練
乳酸閾値訓練
乳酸閾値の求め方
乳酸分析器
コンコーニテスト
屋内訓練機
呼吸訓練
訓練または練習の目的は走行速度、動力および効率などを向上させること。自転車競技などのための持久力および脚力などの向上のための訓練(トレーニング)方法としては、ゾーン訓練及びインターバル訓練などがある。
ゾーン訓練
ゾーン訓練は安静心拍数と最大心拍数の間をゾーン(区域)に分割し、運動目的に合ったゾーンの心拍数で走行することによる訓練。区域の例を表1に示す。
(表が見切れる場合は横にスクロールできます)
区域No. | 区域名 | 心拍数 | 記事 |
---|---|---|---|
1 | 健康増進 | 50~60% | 肥満対策。コレステロールおよび血圧の減少。ウオームアップ。力および持久力の訓練にはならない。 |
2 | 脂肪燃焼 | 60~70% | 全カロリーの約85%が脂肪から供給される。 |
3 | 機能向上 | 70~80% | エアロビック。心肺機能および持久力が向上する。脂肪と炭水化物がほぼ半々の割合で消費される。 |
4 | 無酸素 | 80~90% | 無酸素運動。必要とする酸素が十分に供給されない。インターバル訓練の訓練期間の運動強度。 |
5 | 危険 | 90~100% | 短時間の走行しかできない。害がある。 |
注) 心拍数は最大心拍数に対する割合。
次のような人は、運動強度80~100%の運動(区域No.4およびNo.5)はしないことが望ましいと言われる。1)35歳以上の人 2)肥満の人 3)喫煙者 4)禁煙後1年未満の人 5)心臓病、血管病または気管支の病気の経歴がある人 6)高血圧の人
インターバル訓練
期間訓練とも呼ばれる。運動強度の大きい期間(訓練期間)とゆっくりペダルを漕いで鼓動を回復する期間(回復期間)を繰返すことによって速度、動力および持久力を向上させる、主に競技者向けの訓練。
この訓練は毎日行っても効果はなく、少なくとも2日間空けて、1週間に2回程度が良いとされる。訓練前に準備走行(ウオームアップ)を行う。訓練期間の長さは1分~10分間そして回復期間の長さの目安は訓練期間の3倍、すなわち3分~30分間。これらの時間は距離または区間と置き換えてもよい。心拍計がある場合は、訓練期間の心拍数は最大心拍数の80%~90%そして回復期間の心拍数は最大心拍数の50%~60%とする。1回の訓練における訓練期間の繰返し数は3~5回。
LSD訓練
長距離低速訓練のこと。低速とは主に有酸素運動の速さ。長距離とは時間にして90分以上の距離。自転車走行の基本訓練として使われる。主に持久力の向上訓練。
併せ瞬発力の向上も見られる。LSDはロング スロー ディスタンス(長距離低速)の頭文字であるが、ロング ステディ ディスタンス(長距離定速)が正しいと言う説もある。
ステディは一定(の速度)と言う意味。ディスタンスは距離のこと。
パワー訓練
一般のパワー訓練
自転車以外の運動で人体の動力(パワー)を向上させる訓練は、パワー訓練(トレーニング)と呼ばれている。筋肉による動力は筋力とそれを動かす速度(動く速度)の積で、次式で表される。
筋肉パワー = 筋力 x 動く速度
例えば、バーベルを動かす場合、その重さ(筋力に対応する)とそれを動かす速度の積がパワーすなわち動力となるので、早く動かさないと動力は出ない。
自転車のパワー訓練
自転車のパワー訓練においても動力を向上させることを1つの目的としているが、動力計を付けた自転車で走る訓練がパワー訓練と呼ばれている。
パワー訓練の1つの方法は心拍計による訓練概念を動力計に適用すること。すなわち、1つは動力による区分け(パワーゾーン)をして、訓練目的に対応するゾーンの動力で走ること。動力が一定になるよう走る訓練は心拍数が一定になる訓練よりも効果が大きいと言われる。
参考: 動力計
臨界動力
疲労をせずに維持できる最大動力は臨界動力(クリティカルパワー)と呼ばれる。タイムトライアルで所定時間走ったときの平均動力もクリティカルパワー(CP)と呼ばれる。例えば、30分間走ったときの平均動力はCP30と呼ばれる。タイムトライアルで60分間走行したときの平均動力(CP60と表される)は臨界動力となるといわれる。
グラフ用紙の縦軸に動力[%]を取り横軸に時間を取って臨界動力[%]を打点すると下図(動力時間曲線)のような双曲線になる。
これは走行時間が長いほど臨界動力は低下することを示している。目安としては、動力が5%低下するとその動力で走れる時間は約2倍になる。
臨界動力計算器
臨界動力を求める計算器を次に示す。入力するCP3は全力で3分間走ったときの平均動力そしてCP20は翌日全力で20分間走ったときの平均動力。
- 計算例
- CP3が350WそしてP20が250Wの場合の臨界動力を求める。臨界動力は232W。
乳酸閾値訓練
概要
乳酸閾値(LH)の95~105%となる動力または心拍数で行う訓練。閾値動力および持久力を向上させることを目的としている。LHの95%以下での運動では効果に乏しく、LHの105%以上の運動では過大な運動となる。
乳酸閾値
運動によって筋肉に乳酸が生成されるが、血流に吸収されて肝臓で分解される。運動強度が大きくなると乳酸の発生量も増加し、血流で吸収しきれない血中濃度となる。このときの乳酸濃度は乳酸閾値(LT)と呼ばれる。乳酸閾値を越える運動強度では筋肉は効率よく働かず運動は持続できない。乳酸閾値が大きいと早く走ることができかつ持久力もある。乳酸濃度(乳酸値)は指先などから血液を採取して乳酸分析器で測定する。
運動と乳酸閾値
乳酸閾値は運動訓練によって上がる。下図のグラフは動力と乳酸値の関係の一例を示す。
乳酸は動力の増加に伴い直線的に増加するが、ある点からは急激に増加する。この変化点は乳酸閾値である。訓練によって赤色の曲線が青色の曲線に変わったことを示している。この例では閾値動力はLT1からLT2に向上している。
安静時の乳酸値は個人差があり、0.5~1.5 mmol/l (ミリモル/リッター)であるが、訓練によりこの値も低下する。
乳酸閾値の求め方
血中の乳酸を測定せずに閾値動力または閾値心拍数を求める方法は、次のような方法がある。
(A) 臨界動力CP60を測ること。CP60は閾値動力に近似しているといわれる。
(B) コンコーニテストによって求める。
(C) 無酸素酸閾値計算器で求める。乳酸閾値は無酸素閾値に近似している。個人差があり、計算結果は目安。
時間計画
乳酸閾値訓練の時間計画の例を次に示す。
- インターバルLT訓練 : 1週間に2回、間に3分間の休憩を入れた10分間のLT訓練を5回行う。
- 連続LT訓練 : 1週間に2回、30分間のLT訓練を行う。
無酸素閾値計算器
年齢及び安静心拍数から無酸素閾値を求める計算器を次に示す。
- 計算例
- 30歳の男性で安静心拍数が65の人の無酸素閾値を求める。無酸素閾値は159~165 bpm。幅があるのは個人差があるため。
乳酸域値の求め方
乳酸閾値を求めるには、エクササイズバイクまたはトレーナーで動力を変化させて、動力に対応した乳酸を乳酸分析器で測定し、縦軸に乳酸そして横軸に動力または心拍数を取ったグラフに打点して求める。
6段階(ステージ)テストの記入表の例をを下に示す。
ステージ | 動力 [kW] |
乳酸 [mmol/l] |
心拍数 [bpm] |
---|---|---|---|
休息 | |||
1 | |||
2 | |||
3 | |||
4 | |||
5 | |||
6 |
よく訓練をした競技者の動力と乳酸値の関係例を「動力-乳酸 グラフ」に示す。グラフ縦軸は乳酸濃度で単位は血液1リッター当たりの乳酸ミリモル。
乳酸は動力の増加に伴い直線的に増加するが、ある点からは急激に増加する。この変化点は乳酸閾値である。
ある女性競技者の動力増加に対応して、乳酸および心拍数を測定したデータをグラフに打点して「心拍数-乳酸 グラフ」に示す。
この例では、乳酸域値は2.3mmol/lそしてそのときの心拍数は162bpmとなっている。
乳酸分析器
指先または耳たぶから血液を一滴採取して乳酸値を測定する計器。手のひらに乗る大きさのものが一般的。測定値は[mmol/l](ミリモル/リッター)の数値として画面(ディスプレー)に表示される。測定範囲は、メーカーによって 0.5~25mmol/l 又は 0.8~23mmol/l など。日本製の乳酸分析器が海外でも使われている。
コンコーニテスト
概要
個人の最大有酸素(エアロビック)運動と無酸素(アナロビック)運動の心拍数閾値(HRT)を求めるテスト。
開発者
イタリアFerrara大学の生理学教授のコンコーニ(Francesco Conconi)らが開発し、1982年に「Applied Physiology」誌に発表した。コンコーニの記事は走者(ランナー)のテストであり自転車走行者のテストは行っていないが、自転車走行にも使われている。コンコーニは自身がサイクリングを行っているが、プロの自転車競技者の指導も行っており、サイクリングは一生のスポーツであると言っている。
テスト方法
自転車走行のテストは次のように行う。10分間程度のウオームアップ後、例えば20km/hの速度から初めて、1分毎に2km/hの間隔で走行速度を増して、心拍数を測る。間隔を1km/hとせばめると精度は上がる。座漕ぎで一定速度を維持できなくなれば終わりとする。最大心拍数は立ち漕ぎで得られる。速度増加はギア比を変えず、ケイデンスを上げることによって行う。そのため、自分の最高ケイデンスを超えないように、ギア比は例えば3.5程度の高めとする。ローラー台でテストを行うこともできる。
心拍数閾値
心拍数閾値はグラフ上で求める。グラフの横軸に走行速度[km/h]を取り、縦軸に心拍数[bpm]を取って、測定値を打点する。
横軸を動力[W]としてもよい。これらの点を通る直線を引く。直線から曲線へと離れる点が出てくる。この直線から曲がろうとする点(心拍数が速度又は動力と直線の比例関係を示さなくなる点)が心拍数閾値となる(上図の赤色矢印)。
上図のようなきれいなグラフとなる人は多くないようである。このような変化点(注)が現れない人もいる。その場合は、大変きついと感じたときの心拍数を心拍数閾値とするという人もいる。コンコーニは、この心拍数閾値(HRT)は乳酸閾値(LT)と一致すると考えたが、一致する人は約7割という報告もある。無酸素閾値(AT)は心拍数閾値(HRT)よりも20bpmだけ低いという報告もある。
(注)数学でいう変曲点は曲線が凸から凹に(または凹から凸に)変わる点であり、心拍数閾値の点は変曲点ではないので、変化点(折れ曲り点)としておいた。
屋内訓練機
屋内訓練機としては、次のような装置がある。屋外自転車を使うもの[(A)、(B)]及び使わないもの[(C)、(D)]がある。
(A) ローラー台
(B) トレーナー
(C) エクササイズバイク
(D) スピンバイク
呼吸訓練
呼吸筋を強くすることによって、主に吸気能力を向上させる訓練。吸気量(酸素取り込み量、VO2max)及び炭酸ガス排気量を増すことにより、持久力などを向上させることを意図している。
呼吸訓練器具がある(上図は一例)。器具のマウスピースを口に当てて呼吸すると、給排気に抵抗が付くようになっている。訓練の度合いに応じて、その抵抗は調節できるようになっている。抵抗を水柱cmの単位で数値表示する形もある。