必要動力
必要動力計算器
必要動力計算器の利用例
動力体重比
動力の内訳の説明
空気密度
動力の計測
必要動力
動力の内訳は、空気抵抗、転がり抵抗、伝動損失および登坂抵抗(平坦路では零)です。
このうち空気抵抗、転がり抵抗および伝動損失は動力損失として完全に失われるので小さいことが望ましい。
必要動力は速度が速いほど大きくなります。また、速度が速いほど空気抵抗の割合が大きくなります。
自転車用の動力計を取り付けると、実際の動力が計測できる。
人体のエネルギー消費量は、人体のエネルギー変換効率がおよそ15~30%であるため、必要な動力の3~6倍となる。
必要動力計算器
走行に必要な動力およびその内訳を計算する計算器です。必要動力が自分が出せる動力より大きいと、その速度(計算器に入力した走行速度)を出すことは出来ません。
「道路舗装」、「自転車の種類」および「服装」を選択後、身長から走行速度までの10項目を、半角数字で入れてください。必要動力およびその内訳が出ます。
- 荷物質量:荷物がないときは、0を入れる。
- 車輪外径:タイヤ外径。→タイヤ寸法
- 向い風速:向かい風の風速を入れる。無風の時は、0を入れる。追い風の計算はできません。
- 道路勾配:平坦路は、0を入れる。下り坂の計算は出来ません。→道路勾配
- 胴傾き角:上半身の水平からの傾き角度(胴角度)。→乗車姿勢計算器
必要動力計算器の利用例
「必要動力計算器」の利用例としては、次のような項目がある。
- 動力計算
- 走行に必要な動力およびその内訳が計算できます。別に得た自分の最高速度を使って出せる動力を計算できます。
- 速度計算
- 例えば、体重を減らせた場合に出せる走行速度を計算できます。自分の出せる動力を使って試行錯誤により、走行速度を変えて入力して、自分の動力と一致するまで計算する。
- 上れる道路勾配計算
- 出せる動力から上れる道路勾配を試行錯誤で求める。道路勾配としては上りたい道路の勾配を入力し、必要動力を計算する。計算した動力が出せる動力以下であれば、その坂を上ることができる。
- 消費エネルギー計算
- 必要動力計算器で得られた動力および代謝効率を、次の「エネルギー消費量計算器」に入れると、人のエネルギー消費量が計算できます。代謝効率は個人差がある他、出力およびケイデンスで変わり、適度に訓練した人の代謝効率は22~26%。1週間の走行日数が少ない人は、これより効率が低い。代謝効率が良い(大きい)人は、エネルギー消費量が少ない。
- 計算例
- 動力120W、代謝効率20%で80分間走った場合、毎分のエネルギー消費量は、8.6kcal/分。そして、80分間のエネルギー消費量は、688kcal。
動力体重比
- 動力体重比とは
- 動力体重比は、動力[W]と体重[kg]の比。体重1kgあたりの動力W(ワット)を表す。式にすると、動力体重比 = 動力/体重。動力としては持続できる最大動力を使う。例えば、持続できる最大動力が250Wそして体重が60kgの場合、動力体重比 = 250W/60kg = 4.2W/kg となる。
- 坂登り
- 坂登りなどでは動力体重比が大きいと有利となる。登坂は人と自転車を高いところへ持ち上げるのと同じなので、動力が大きくかつ軽いと持ち上げ易い。ツール・ド・フランスはアルプス越えがあるので、登坂能力は重要。
- 誰が早く登坂できるかは、動力の比較だけでは分からないが、動力体重比を比較すれば分かる。単に体重を軽くすると、筋力も低下して動力が低下するので、動力体重比も低下する。動力を大きくする訓練によって体重を減らし、動力体重比を大きくすることが望ましい。
- 実例
- ツール・ド・フランスの競技者の動力体重比は5~6 W/kg。1996年のツール・ド・フランスで優勝したBjarne Riisの動力体重比は 480W/68kg = 7.1 W/kg であった。
- 動力体重比計算器
- 次に動力体重比の計算器を示す。
- 計算例
- 持続できる最大動力が250Wそして体重が65kgの場合、動力体重比は 3.8W/kg。
動力の内訳の説明
空気抵抗
走行および風によって、空気が身体および自転車に衝突することによって生じる抵抗。
空気1m3の質量は約1.2kgある。
空気抵抗に影響する要因は:
- 1.自転車の速度
- 空気抵抗は速度の2乗に比例するので、速度が2倍になると(22=)4倍に、3倍になると(33=)9倍になる。このように、高速になるほど空気抵抗は走行に必要な動力の大きな割合を占めるようになる。例えで言えば、速度が増すほど空気抵抗の壁は益々厚くなり、自分の動力でその壁を破れなくなったときが最高速度となる。実際は、転がり抵抗の壁なども加わるが、空気抵抗の壁ほどには厚くならない。
- 2.面積
- 空気抵抗は前面への身体および自転車の投影面積に比例する。MTBのタイヤは面積が大きい。前傾姿勢は投影面積が減少し、空気抵抗が減る。競技服は体に密着しているので、面積が最小となる。一方、冬服は面積が大きくなる。
- 3.形状
- 同じ面積でも流線型の方が空気抵抗が少ない。形状の違いは形状係数で表す。
- 4.空気密度
- 空気抵抗は空気密度に比例する。冬は気温が低く空気密度が大きいので空気抵抗も大きい。逆に、夏は気温が高く空気密度が小さいので空気抵抗は小さい。高地では気圧が低く空気密度も小さい。そのため空気抵抗も小さい。メキシコシティは高地で、平地より空気密度が20%ほど小さい。1970年代および1980年代の速度記録はメキシコシティで出ている。
- 5.風向
- 45°前方から吹いている風の空気抵抗は、その風が正面から吹いている場合の空気抵抗の約7割である。真横からの風は空気抵抗に対して中立ではなく、その風が正面から吹いている場合の空気抵抗の約1割の空気抵抗を受ける。追い風による必要動力減少は、向い風による必要動力増加の約4割である。例えば、行きと帰りで同じ風速の風が吹いていて、行きは向い風そして帰りは追い風とすると、帰りの追い風によって回収できる(減少する)動力は行きの風によって増加した動力の約4割である。この計算器は正面以外の風向(斜め、横および後方など)の風による空気抵抗は計算できません。
- 6.ドラフティング
- 走行中の体の後ろには渦が発生して圧力が低くなる。後続車はその低圧域に吸い寄せられるので動力が少なくなる。この現象を利用するために、前の自転車の直ぐ後を走ることはドラフティングと呼ばれる。この計算器はドラフティングにたいする計算はできません。
ころがり抵抗
走行することにより、タイヤと路面の間に生ずる抵抗。ころがり抵抗係数が大きいほど、またタイヤにかかる荷重(地球の引力)が大きいほど大きくなる。逆に、これらが小さいと、ころがり抵抗も小さくなる。
ころがり抵抗 = ころがり抵抗係数 x タイヤにかかる荷重
※ タイヤにかかる荷重は、体重、自転車および荷物の質量に働く引力の合計。
ころがり抵抗係数に影響する要因は以下。
- 1.路面の状態
- 路面が粗いほど大きくなる。平坦な舗装路、ざらついた舗装路、無舗装路、砂利道の順に大きくなる。
- 2.タイヤの形状
- タイヤの接地面の形状が粗いほど大きくなる。ブロックタイヤが最も大きく、スリックタイヤが最も小さい。空気圧が低く柔らかいタイヤは、変形しながら走るため大きくなる。
- 3.タイヤの材質
- タイヤおよびチューブの材質によって変わるので、タイヤメーカーはころがり抵抗係数が小さい材質の開発を行っている。天然ゴム(ラテックス)チューブはブチルゴムチューブより転がり抵抗が小さいが、空気抜けは早い。天然ゴムはブチルゴムに比べて弾性がはるかに大きいため、タイヤ変形時にタイヤとチューブの間でブチルゴムのような摩擦が生じない。
- 4.タイヤ空気圧
- タイヤの空気圧が大きいほどタイヤの接地面の変形が少なく、転がり抵抗が小さいが乗り心地は悪くなる。
- 5.タイヤ外径
- 前記(1~4)の要因ほど大きくないが、タイヤ外径が大きいほど転がり抵抗は小さい。
登坂抵抗
自転車の位置を高めることに対する抵抗。道路勾配が大きいほど大きくなる。登坂によって位置エネルギーが大きくなるので、使われた動力は損失にならない。下り坂になると、ペダルを漕いで動力をださなくとも、位置エネルギーによって走ることができる。
伝動損失
チェーンおよび軸受の摩擦による損失。チェーンの摩擦としては、ブッシュとピン、リンクとリンク、ローラとスプロケットの歯およびリンクとスプロケットの歯の摩擦がある。軸受の摩擦としては、ペダル軸受、クランク軸受、チェーンプーリ軸受、前輪軸受および後輪軸受の摩擦がある。
空気密度
空気密度は単位容積の空気の質量。標高0mそして温度15°の空気密度は約1.23kg/m3。
標高が高くなると空気密度は低下する。その関係を次のグラフに示す。
グラフの横軸は標高[m]そして縦軸は空気密度[kg/m3]。市役所の標高例を次の表に示す。
市 | 標高[m] |
---|---|
茅野市 | 802 |
松本市 | 592 |
日光市 | 378 |
長野市 | 362 |
山梨市 | 343 |
自転車走行の空気抵抗は空気密度に比例する。空気密度が小さいと空気抵抗が低下するので、速度記録は出しやすい。
高地では空気密度が小さく、空気抵抗も小さい。メキシコシティは高地(標高2,240m)で、平地より空気密度が20%ほど小さい。1970年代および1980年代の速度記録はメキシコシティで出ている。
なお、前記の「必要動力計算器」は平地の空気密度で計算している。
動力の計測
ペダルを漕ぐ動力は、動力計によって計測することができる。