概要
構造
種類
形状、大きさ、質量
サドルレール
サドル高さ
サドル位置の調整
セットバック
サドル痛対策
サドルカバー
サドルバッグ
サドル圧力
実質立管角
サドルの性能試験
可変サドル高さ
概要
自転車の腰を掛ける座をサドルと呼ぶ。あえて漢字をあてれば鞍。シートとも言う。サドルおよびサドル支柱(シートポスト)を併せてサドルと呼ぶことがある。
体重の大部分はサドルで支持されるが、一部は足(ペダル)および手(ハンドル)によっても支持される。
シティ車に比べロード系自転車などはペダルによる支持の割合が大きくなる。
構造
概要
サドルを構成する部品は、座および座をサドル支柱のクランプで支持する左右のサドルレール(船線)である。レールをサドル支柱に固定する方法には、やぐら以外にも各種ある。座は一般にトップ(上皮)、クッション材(弾性体)およびベース(基盤)で出来ている。
上皮
上皮の材料としては、皮革、合成皮革、ポリウレタン繊維(ライクラなど)およびアラミド繊維(ケブラーなど)などが使われる。女性用サドルの中には、花柄などの模様を付けたものがある。
弾性体
気泡ゴムまたはジェルが使われる。気泡ゴムは上皮と基盤の間に注入しサドル型に入れて加熱して固まらせる。ゴムと気泡の割合を変えることにより軟らかさ(軟、中、硬)を変える。空気クッションもある。軟らかいものは短時間乗車そして硬いものは長時間乗車に向いている。
基盤
基盤の形状によってサドルの外形が決まる。基盤の材料は硬質合成樹脂およびCFRP(炭素繊維強化樹脂)などが使われる。
サドルノーズ
サドルの先端の幅の狭い部分はサドルノーズ(鼻)という。ノーズは、高速での曲がり(コーナリング)などでの制御および落下防止などのために必要。UCI規則では、サドル長は240~300mmとしており、これはノーズの必要性を暗に示している。
解剖学的サドル
会陰(えいん)を圧迫しないよう、サドル後部の中央に谷を設けその両側の丘部に弾性詰物を入れたサドルを解剖学的(アナトミック)サドルと呼ぶことがある。
ばねサドル
コイルばねのなどのばねの付いたサドル。振動を緩和して乗り心地を良くするために、サドル後部左右とレールの間に2個のばねなどを付けている。 シティ車のサドルはばねサドルであることが多い。ばねによるサドルの上下動の支点はサドル前部にある。ばねの種類としては、圧縮コイルばね、引張り円錐ばねおよび弾性体などがある。
吊り金具
革サドルの中には、サドルバッグなどを吊るための吊り金具が後部左右に付いた形がある。
張り調整
上皮の張りを調整できる形がある。張り調整ボルトでサドル後端の座板と連結した上皮下の押し金をボルトで押して表皮を張る。
種類
革サドル
革サドルは汗をかかず、かつ着衣との摩擦係数が小さいので、サイクリング車およびスポーツ車などに使われる。革サドルのサドル革厚さを表1に示す。革サドルは英国のBrooks社などが作っている。
区分 | トップの長径 [mm] | 厚さ [mm] |
---|---|---|
トップ | 280以上 | 3.5以上 |
250以上 280未満 | 2.5以上 | |
250未満 | 2.0以上 | |
サポート | - | 1.5以上 |
新品は硬いので、野球の革グローブ用、革ソファ用またはサドル用の、革を柔らかくするオイルを滲み込ませる必要がある。500km程度の走行でお尻の形になじみ、人によっては長距離走行においても乗り心地が良い。
1年に1回程度オイルを塗布して柔らかさを保つと同時に手入れをする。
弾性サドル
基盤と上皮の間にクッション材(弾性体)を入れたサドル。競技車用は弾性体が薄く硬い。
ジェルサドル
基盤と表皮の間にウレタンなどの高分子化学物質で作ったジェルを入れたサドル。振動および衝撃の吸収の他、坐骨下などの高圧点の圧力を分散する。圧力分散により神経の圧迫および筋肉の血行を改善し、お尻の痛みを軽減する意図がある。効果は個人差があり、中短距離走行か長距離走かによっても変わる。ジェルには形状の決まったもの(ジェルフォーム)および不定形のものがある。形状が決まったジェルは力を加えるとへこんで容積は減少し力を取ると元に戻る。 一方、不定形のジェルはお尻の形状になるように流れて容積は減少しない。
スプリットサドル
着座部を左右に分割(スプリット)して、それぞれにジェルなどの詰物を入れたサドル。左右の足のペダリングに応じて自然に上下に動くこと(ローリング)を意図している。 後部のみ分割した形および全長に渡って分割した形がある。
カットアウトサドル
会陰を圧迫しないようにとの意図のもとに、サドルの中央部に切抜き(カットアウト)を開けたサドル。 溝つきサドルまたは穴あきサドルとも呼ばれる。前傾姿勢が大きくなる(胴角度が小さくなる)につれて効果は減少する。
女性サドル
女性の身体的な特性に合わせたサドル。サイクリング用及び競技用がある。
次のような特徴がある。
1. 女性の相対的に大きい骨盤に合わせて、サドル幅を広くしている。
2. 女性の会陰(えいん)を圧迫しないよう、中央部に溝状の穴又はへこみを設けている形がある。
3. 女性向の色又は模様を付けているものもある。
トライアスロンサドル
トライアスロンバイクに使うサドル。ロードサドルは坐骨で支持するのに対し、トライアスロンバイクは水平に近い前傾姿勢で座るのでトライアスロンサドルは股で支持することとなる。従って、ロードサドルは後方2/3部分の形状が重要であるのに対し、トライアスロンサドルは前方2/3部分の形状が重要となる。
サドル長さは、240~300mmで平均は275mm。質量は165~280gで平均は240g。
カラーサドル
各種の色に着色したサドル。色としては白、緑、青、赤、桃色及び茶などがある。フレームなど他の部品の色に合わせることがある。
サスペンションサドル
サスペンション(緩衝装置)の付いたサドル。
ノーズレスサドル
サドルノーズが会陰を圧迫しないよう、ノーズ(鼻)をなくしたサドル。競技車などではノーズは高速での曲がり(コーナリング)などでの制御および落下防止などのために必要。
バナナシート
1960年代、特に1970年代の小径車によく使われた長いシート(サドル)。長さは45cm前後。サドルの後部がそり上がった形もある。
サドルの前部はサドル支柱で固定し、後部は後輪車軸または後つめより立ち上がった後棒(シシーバー)で固定する(サドルが長いため)。バナナシートの付いた自転車はバナナシートバイクまたはバナナシートバイシクルと呼ばれることがある。
ビッグノーズ
サドルノーズの幅の広いサドル。サドルの質量は大きくなる。勾配の大きい坂道においては、ノーズ部に座ってペダルを漕ぐことを意図している。
特殊サドル
サドルレールの付いたカーボン製の基盤(シェル)の上の、前及び後ろ左右にパッドを付けた形がある。パッドは交換できる。質量は111g。タイムトライアルバイクなどの競技用自転車に使うことを意図している。
一輪車サドル
一輪車に使うサドル。前方の幅が広く、側壁がある。中央は左右及び下にへこんでいる。ジェルの入った形がある。サドル支柱の上端に付いた四角板に4本の袋ナットで固定する形が多い。
形状、大きさ、質量
形状
上から見た形状は、先端から中央付近まで緩やかに幅が広がり、そこから後方に行くに従いさらに大きな割合で幅が広がって、やがて最大幅となる。その後方では急に幅が狭まる。サドルの中間部より前方はもも(大腿)をこすらないように狭くなっている。サドル前部の幅の狭い部分は鼻(ノーズ)と呼ばれ、釣合い、制御および衝撃を受けたときの滑り落ち防止のために必要。 幅が大きくなり始める位置(アール部分)および最大幅となる位置は、メーカーおよび形式により異なる。これらの位置によって坐骨が乗る位置も異なってくる。そして、これらの位置は後記の実質シート角度と関連がある。
坐骨幅
坐骨は、お尻の最下部の骨。この坐骨の左右の下部突起をサドルで支持する。個人差はあるが一般に女性の骨盤は中央部のへこみが男性より少なく、かつ胎児を育むために骨盤が大きい。従って坐骨幅(坐骨間隔)も男性より大きい。椅子の上に板を置いて座ると突起の位置が分かる。ダンボール紙を敷くとへこんで分かる。およその坐骨幅は75~125mm。 坐骨を上から見るとハの字形をしているため、乗車姿勢を垂直姿勢から水平姿勢に傾けるにつれて、坐骨とサドルの接触点の間隔は狭まっていく。そのため、タイムトライアル車のような水平に近い乗車姿勢のサドルは相対的に幅の狭いサドルが許容できる。
サドル幅
サドル幅はサドルの最も幅の広い位置での幅で表す。
サドルの座は坐骨を支持できる十分な幅が必要。男性は最低150mm程そして女性は最低180mm程の幅が必要であるが、個人差があるので、自分の坐骨に合った幅を選定する。各社のロード車用のサドルの寸法を打点したグラフを見ると、サドル幅は120~180mmが多い。男女共用のシティ車のサドル幅は広くなっている。直立姿勢になるほど、幅広のサドルが許容できかつ快適となる。
ティースサイド大学(英国)のスピアースらの研究(2003年)によると、サドル幅が広いほど会陰の圧迫が少なく、左右坐骨中心幅(坐骨幅)の少なくとも2倍の幅があるのが良いという。右写真のサドル幅は坐骨幅の2倍に設計されている。
韓国のChonnam大学の研究(2002年、英文)によれば、20人の男性に細幅と広幅のサドルで5分間40rpmでペダルを漕いでもらい会陰の血流を測定すると、広幅サドルの血流の減少は 約6%であったのに対し、細幅サドルの血流の減少は約60%であった。これは細幅サドルの問題点である。
サドルフィットベンチ
座ると必要なサドル幅が分るベンチがある。座ると坐骨によってジェルがへこみ必要なサドル幅が分るようになっている。これは、特定の自転車メーカーが自転車店用に作っている製品。
長さ
サドルはレールによってその前後位置の調節が出来るよう、ある程度の長さが必要。ただし、サドル長さは350mmを超えてはならない(JIS D9301、一般用自転車)。UCI規則は、サドル長さは最小240mmそして最大300mmとしている。各社のロード車用のサドルの寸法を打点したグラフによると、サドル長さは、260~280mmが多い。
硬さ
柔らかいサドルは、静止状態で座るのは楽であるがペダルを駆動する筋肉に座っており、その血流が悪くなる。
質量
サドル質量を右グラフの赤点(ロードバイク用)および黒点(マウンテンバイク用)で示す。
ロード車用のサドルの質量は、座がCFRP(俗に言うカーボン)のものは約100g、パッドなしの細幅のものは約160g、パッド入りの細幅のものは約200gそしてパッド入りの広幅のものは約280gとなっている。
サドル幅を狭くし、かつ詰物を減らすことによって軽くすることができるが、快適さが失われサドル痛および血流の低下などの問題が生じることがあるので、幅の狭いサドルは競技用以外の用途には向かない。
サドルレール
概要
サドルをサドル支柱のサドルクランプに固定するために、サドル座の下の鼻(ノーズ)から後部に向かって、 左右にほぼ水平に付いている丸棒。舟線とも呼ばれる。
軽量化のために中空の管が使われることもある。軽量化してかつ強度を持たせるために、楕円断面としたレールもある。
機能
レールの前後は座を支持するように上に曲げてある。サドルをサドル支柱に固定する働きがある。レールは板ばねの働きをすると同時にサドル位置を前後に移動できて、ペダルとの水平距離を調節できる。ただし、サドル支柱のクランプ中心は、レール直線部の中心から前後±15mm以内に取り付けることが望ましい。
寸法
レール直径は6.5mm、7mmまたは8mmが多い。左右レールの平行直線部のレール間隔は、30mm、35mm、36mm、43mmおよび44mmなどがある。
レール間隔はサドルとサドル支柱の互換性に関連する。サドルクランプのレール間隔に適合しなければならない。
舟線間隔とも呼ばれる(JIS D9431 自転車-サドル)。
各メーカーのレールの直線部の長さ及びサドル長をグラフに打点して図に示す。
この例では、直線部長さは45~90mmとなっている。直線部長さが長いほど弾性が良い。サドル長は260~300mmとなっている。
調整範囲
サドルのサドル支柱に対する前後の調節範囲 a は、レールの直線部長さ l (エル) およびサドル支柱のクランプ幅 w で決まり、「a = l - w」の式で求められる。例えば、レール直線部長さ70mmそしてクランプ幅40mmの場合は、調整範囲 = 70 - 40 = 30mm となる。
材質
炭素鋼、クロモリ鋼、ばね鋼、チタン合金、マグネシウム合金又は炭素繊維強化樹脂(CFRP)など。チタン合金およびマグネシウム合金は、炭素鋼やばね鋼に比べて軽い上に弾性が良い。
I ビーム
サドルレールの代わりに、サドル中心線上に1個のI 形などの形状のビーム(けた)を付けたサドルがある。サドルの前後位置の調節範囲は、55mmなど。サドルレールのような、ばね作用はない。I ビームのサドル支柱が必要。用途はマウンテンバイクなど。
サドル高さ
基点
水平のサドル高さの基点は右図のA、BおよびCの3種類がある。
- ( A )
- 立管中心線に沿った、サドルとボトムブラケット中心間の距離。人の出力およびペダリング効率に影響する。
- ( B )
- 垂直に測ったサドルとボトムブラケット中心間の距離。
- ( C )
- 垂直に測ったサドルと路面間の距離。靴の着地に影響する。
高さの決め方
サドル高さは次のようにして決める。ペダルを下死点とし、足指の付け根のふくらみをペダル軸上にしたとき、ひざが少し曲がる高さとする。または、ペダルを下死点とし、かかとをペダル軸上にしたとき、ひざが伸びる高さとする(これにより足指の付け根のふくらみをペダル軸上にしたとき、ひざが少し曲がるようになる)。
これは出力を重視した設定であるので、効率を重視する長距離走行およびこれらの高さが自分に合わない場合は、サドル高さを0~10mm下げたほうが良い。ペダルを漕いだとき、お尻が左右に振れるのは、サドルが高すぎるから。街中通勤車の場合は、信号停止時に靴先が路面に安定して着くまでサドルを下げるのが安全。
高さ調整方法
サドル高さの調節は、立管上部のシートクランプのボルトまたはレバーを緩めて行う。サドル支柱には、はめ合わせ限界標識が刻印されているので、その限界以上にサドル支柱を立管より出さない(取付強度上)。限界標識以上に上げなければ合わないとすれば、それはフレームサイズが小さいため。
サドル最適高さ計算器
次は効率的なペダル運動のできるサドル最適高さCを計算する計算器です。
脚長、ペダル上面高さ及び靴底厚み(指根部)を半角数字で入れて、「計算」を押して下さい。サドルの路面からの最適高さが出ます。
脚長は、素足で床に立った時の床から大腿骨(太ももの骨)上端(横から指で押すと分かります)までの距離で、鋼製巻き尺で測れます。ペダル上面高さは、ペダルが下端にある時の路面からペダル上面までの高さです。
- 計算例
- 脚長835mm、ペダル上面高さ160mmそして靴底厚み10mmの場合、サドル最適高さは932mm。
サドル位置の調整
上下の調整
立管(シートチューブ)上部のシートクランプのボルトまたはレバーを緩めると、サドル支柱(従ってサドル)を上下に動かすことが出来る。
前後の調整
クランク軸に対するサドルの前後位置は、脚力が効率よくペダルに伝達される位置とする。そのためには、クランク水平位置において、ひざの関節の下にペダルの中心が来る位置とする。この中立位置から自分に適した位置に調節する。 見た目では分かりにくいので、たこ糸に下げ振り(右図)又は重りを付けて、ひざの関節(皿 [膝蓋骨] )の下あたり)から吊り下げると分かる。サドルの前後位置は、サドルの下に付いていて、サドルレールをサドル支柱に固定しているクランプ(やぐら)の六角ナットをゆるめることによって、最大 30~40mmの移動ができる。レールとクランプの組合せによっては、調整範囲が10mm以下となるものもある。大きな調整(移動)を必要とする場合は、立管角が適していない可能性が大きい。
傾きの調整
サドル上面の傾き(サドル角度)が水平となるよう、水準器を使って調整する。サドルの傾きは、サドル前部及び後部の高い点を通る面の傾きで表す(UCI)。サドルレールを支持しているサドルクランプをサドル支柱に固定しているボルトを緩めると、サドル角度は調節できる。人によってはサドル角度を1~2°調節することによって、お尻の痛みおよび背中の痛みを軽減できることがある。UCI規則(1.3.014)では、サドル座面は水平とする、と定めている。
セットバック
セットバックは、ボトムブラケット(BB)芯からサドル鼻までの水平距離(右図)。サドル後退ともいう。この寸法はサドル長さ、サドル支柱の突出し長さ(可変)及びサドル支柱に対するサドルの前後位置(可変)によって変わる。ロード車のセットバックは脚長が長いほど大きくなり、40~90mm。
セットバックはサドルレールを固定しているサドル支柱のサドルクランプのボルトを緩めて、サドルを前後に移動することによって調節できる。
セットバック(サドル後退)は、クランク水平位置において、ひざの皿(膝蓋骨)の下にペダルの中心が来る位置とする。この中立位置から自分に適した位置に調節する。例えば、長距離競技用なら中立位置からサドルを10mm後へ動かし、スプリントなど加速を重視する場合は10mm前へ動かすなど。
UCI規則では、サドル後退は最小50mmと規定している。
サドル痛対策
お尻の筋肉量、脂肪量、形状、坐骨幅および血流などには個人差があり、人によっては、長距離走行において、サドルによりお尻が痛くなることがある。
サドル痛対策には次のようなものがある。
- 形状、寸法(特に幅)および材質などが自分に合ったサドルを選ぶ。人によってはジェル入りが有効。
- 痛くなる前に、サドルからお尻を浮かせ血流を回復させることを繰り返し続ける(例えば、10~15分ごと)。
- 人によっては、サドル前部(鼻)を少し(1°~3°)下げると痛みが軽減されることがある。下げすぎるとお尻が前に滑る。標準は水平。
- サイクルショーツのみを着用する。下に一般のブリーフを着用していると、その縁取りがお尻を圧迫することがある。
- サドル高さを適切にする。高すぎるとペダル回転毎にお尻が左右に動き摩擦が起きることがある。低すぎるとサドル(お尻)の荷重が大きくなる。
- 走行速度が影響する。早く走る場合は、ペダルを力強く押すので体重の大きな割合をペダルで受けることとなり、お尻(サドル)の荷重が減少する。また、前傾姿勢を取るので、手(ハンドル)で支持する荷重が大きくなり、お尻の荷重が減少する。一般に、体重はサドル、ハンドルおよびペダルで分担している。
- サスペンションサドル支柱を使う。ただし、やや重くなる他、脚力のごく一部が吸収される。また、人によっては効果がない。
- ゲル入りなどのサドルカバーをサドルに被せる。
- 長距離走行において、お尻と着衣の間で擦られる人は、サドルと接触する着衣(ショーツなど)の内側又はお尻に潤滑剤として軟膏(シャミークリーム)を塗る。
- 毎日のように自転車に乗って慣れること。1ヶ月以上乗っていないと、サドルが快適でないことがある。
サドルカバー
サドルに被せるカバーには、クッション及びカバー(覆い)がある。
クッション
サドルのクッション性を向上させるために被せるカバー。形状および大きさを変えるものもある。ジェルなどの詰物を入れたもの(ジェルサドルカバー)及び5mm厚のネオプレンゴムを加工したものなどがある。
会陰(えいん)を圧迫しないように、中央部に溝を設けた形もある。詰物を入れたカバーは環状に入れた紐などでサドルに固定する。
カバーを付けるよりも、サドルを交換することが望ましい。
カバー
自転車保管時に日光、雨およびほこりを防ぐために被せるカバー(覆い)。革サドルなどに使われる。
サドルバッグ
サドルに取付けるバッグとして、サドルバッグがある。
サドル圧力
サドルに着座したときに、サドルとお尻の間に働く圧力はサドル圧力と呼ばれる。圧力は一定ではなく分布しており、最大圧力および平均圧力がある。穴の開いたサドルは、圧力が大きくなる。圧力はサドル痛とも関連する。
ドロップハンドルの乗車姿勢で比較すると、ドロップは胴をハンドルで支持する割合が増加するために、トップに比べてサドル圧力は5~10%減少する。
男性及び女性それぞれの直立及び前傾姿勢におけるサドル圧力の分布例を上左図に示す。色が濃いほど圧力が大きい。この例では、女性は男性よりも体重が軽い。男性は前傾(ドロップ)では、直立(トップ)に比べて、高圧部が前方に移動しているように見受けられるが、女性ではあまり変化が見られない。女性は直立よりも前傾の方が中央部の圧力が大きい。
平均圧力で見ると、高出力は低出力の場合に比べて、ペダルに加わる力が増加するため、サドル圧力は10~25%減少する。サドル圧力は上右図グラフのように、クランク角によってペダルに加わる力が変るために、0°(360°)及び180°付近で大きく、90°及び180°付近で相対的に小さい。
実質立管角
ペダルを漕ぐためにサドルに座るので、サドル位置はボトムブラケット(BB)芯が基準となる。BB芯からサドルに坐骨が乗る部分へ直線を引くと、その直線が路面となす角度は実質的な立管角度(人間立管角)となる。
一般には、サドル支柱が差し込まれている立管が路面となす角度が立管角(シート角)と呼ばれている。立管角は75°が平均的な角度である。75°を超えるときつい角度で、75°未満は緩やか角度。
フレームサイズにもよるが、立管角が1°きつく(大きく)なると、ペダル位置は約10mm後方へ移動する。逆に、立管角が1°ゆるく(小さく)なると、ペダル位置は約10mm前方へ移動する。一般に、緩やかなシート角度は長距離走行に向いており、きつい立管角は短距離高速走行に向いている。
標準状態では、人間立管角は機械立管角と近似しているか又はやや緩やかであることが多い。しかし、サドルはレール上を前後に移動できること、およびサドルの形状などによって座る位置が異なるために、人間立管角は機械立管角とかなり異なることがある。
下に、人間立管角(実質立管角)が計算できる計算器を示す。同計算器のサドル鼻水平位置としては、BB芯からサドル先端(鼻)までの後方水平距離を入力する。サドル先端がBB芯の前方にある場合は距離に-(マイナス)を付ける。坐骨位置はサドル先端から坐骨までの水平距離。
所定事項を半角数字で入れて、「計算」を押して下さい。実質立管角(有効立管角)が計算できます。
- 計算例
- サドル高さ890mm、BB高さ275mm、サドル鼻位置後方へ20mm(前方の場合は-20のように-を付ける)そして坐骨位置170mmの場合、実質立管角は72.8゜となる。
サドルの性能試験
JIS D9431 自転車-サドル」に規定があるサドルの性能試験を表2に示す。
(表が見切れる場合は左右にスクロールできます)
試験項目 | 試験方法 | 判定基準 |
---|---|---|
固定性能 (垂直方向) |
サドル前端から25mm以内の箇所に、668Nの垂直荷重を加える。(サドル支柱はクロムメッキを施した外径22.2mmそして菊座ねじ部の締付けトルクは20Nmとする) | 各部に著しい変形および破損がなく、かつサドルとサドル支柱の間に動きを生じてはならない。 |
固定性能 (水平方向) |
サドル前端から25mm以内の箇所に、222Nの水平荷重を加える。(サドル支柱はクロムメッキを施した外径22.2mmそして菊座ねじ部の締付けトルクは20Nmとする) | 各部に著しい変形および破損がなく、かつサドルとサドル支柱の間に動きを生じてはならない。 |
耐久性 | サドル座面を水平にして、サドル支柱を振動試験機に取付け、アダプターを介して座面に質量80kgの重りを載せ、振動数2.5Hzそして全振幅16mmの上下振動を12万回加える。 | 座面および各部に破損および著しい変形などの異常がないこと。 |
ばね強さ | コイルばね式サドルの後コイルばねは、300Nの荷重を加え30秒間圧縮し、荷重を取り除く。 | 永久ひずみは0.5mm以下のこと。 |
耐寒性 | 合成樹脂製サドルは、-20±2℃に30分間保冷した後、直ちに座面を水平にして試験装置に取り付け、質量8kgの重りを600mmの高さから落下させる。 | 各部が破損してはならない。 |
カバー破裂強さ | サドルトップに使用する合成樹脂カバーの破裂強さは、JIS L1096のミューレン形法によって試験する。 | 60N/cm2以上でなければならない。 |
革材料 引張強さ |
サドルトップに使用する革材料の引張り強さ及び伸びは、JIS K6550で試験する。 | 引張り強さは、22N/mm2以上、伸び30%以下でなければならない。 |
可変サドル高さ
概要
レバー操作により、走りながら数秒でサドル高さを変えられる可変サドル支柱がある。フレームの立管に差込んで高さを決めてサドル支柱クランプで固定する。ドロッパーシートポスト及びドロッパーポストとも言う。
用途
登り下りの多いクロスカントリー、丘下り(ダウンヒル)およびフリーライドなどのマウンテンバイク用の可変高さのサドル支柱として使われる。登りではサドルを高くし、下りではサドルを低くする等により最適な乗車姿勢で走れるようにする。
サドル
サドルレールの付いたサドルが取り付けできるが、I ビームサドルが取付できる形もある。
操作
操作レバーは、サドル支柱上部(サドル下)にある形およびハンドルに付けて遠隔操作する形がある。遠隔操作のレバーと可変サドル支柱は、ロープの入ったアウターで連結されている。何れも、下げる場合はレバーを押してサドルに体重をかけると下がり、レバーを開放するとサドル位置が固定される。 上げる場合はレバーを押して腰を浮かせる。ばねの力でサドル支柱(サドル)が上がり、レバーを開放するとサドル支柱位置が固定される。流体式に作動させる形もある。アウターは可動部に連結した形及び静止部に連結した形がある。
ストローク
調整範囲(ストローク)は75、100、125又は150mmなど。トラベルとも言う。クロスカントリー及びサイククロスには短いストロークのものが使われる。
登り(最上位)、トレイル(登り-40mm)及び下り(最下位)の3モードを操作レバーで選定できる形がある。操作レバーで5mm間隔に調整できる形がある。
外径
支柱の外径は、27.2mm、30.9mm又は31.6mmなど。立管の内径に適合しなければならない。支柱にキーを設けて回転しないようにした形がある。
長さ
100~450mm。ストロークが大きいと長くなる。
質量
480~650g。