疲労とは
疲れとも言う。人体の疲労の語源であるが、人体の疲労と区別するために、金属疲労とも呼ばれる。金属はその引張強さを超える応力を加えると破壊する。
しかし強度よりかなり小さい応力でも繰返し加えると破壊することがある。このような強度より小さい繰返し応力による破壊を疲労という。
繰返し数の増加によってもフレームなどの弾性は変わらない。
何回の繰返し応力で破壊するかは、その応力の大きさによる。応力が大きいと百回の繰返しでも破壊するが、応力が小さいと百万回の繰返しでも破壊しない。
この関係を表した両対数の線図は、S-N線図と言う。
S-N線図
1 | 102 | 104 | 106 | 108 | |
繰り返し数 N | |||||
図1 S-N線図 |
図2 S-N線図 |
繰返し応力を特定数加えたとき疲労しない最大応力を、その繰返し数における疲労強度または疲れ強度と言う。疲労強度と繰返し数の関係線図をS-N線図という。
両対数のグラフの縦軸に応力比Sを取り、横軸にその応力の繰返し数Nを取って、その関係を描いた線図で、この線の下の領域では疲労を起こさない。
ここに、応力比Sは、実際の応力Saと引っ張り強さの応力Suの比であり、S = Sa/Su で表される。
例えば、S=0.5なら働いている応力は引張り強さの応力の半分ということになる。
鋼(炭素鋼、ハイテン鋼、クロモリ鋼など)およびチタンのS-N線図は、右下がりの直線となりなっている。 このことは、繰返し数が多くなるほど、より小さい応力で疲労を起こすことを意味している。
繰返し数 が106(百万)~107(1千万)からは水平の直線となっている。
このことは、繰返し数がいくら多くなっても、疲労を起こす応力は変わらないことを表している。この水平の直線の応力は、疲労限界または疲れ限界と呼ばれる。
疲労限度未満の繰返し応力であれば、無限に加えても疲労しない。多くの鋼材の疲労限度は、引張強さの50~60%である。図1の例では、疲労限度は0.5(50%)である。一般には、フレーム、スポークおよびチェーンなどの、繰返し応力の働く部品は、繰返し応力が疲労限度(疲れ限度)を超えないように設計する。
アルミ合金は、下に凸のいつまでも右下がりの曲線となり(横軸が漸近線)、水平部が現れない(図2)。つまり、疲労限度が存在しない。
そこで、アルミの場合は繰返し数 108(1億)の疲労強度を疲労限度と呼ぶことがある。
アルミの疲労限度は鋼やチタンの2.5分の1程度と小さいため、繰返し応力が小さくなるように設計しないと、疲労を起こす。ただし、疲労限度が存在しないため、いずれは(極めて多い繰返し数において)疲労で破壊することは避けられない。
フレームおよびリムなどに使われる俗にカーボンと呼ばれることのある炭素繊維強化樹脂(CFRP、俗に言うカーボン)にも疲労はある。
応力の繰返し数
スポークおよびチェーンなどの応力変化の繰返し数は、走行距離に対応して計算することができる。
しかし、フレームの応力の繰返し数は路面などの走行環境に依存しており計算することはできないが、スポークなどに比べると少ない。
舗装路を走るロード系自転車に比べると、悪路を走るマウンテンバイクの繰返し数は多い。