外装変速機
電子変速機(Di2)
内装変速機
変速ロープ
アウター
自動変速機
工具
自転車の変速機は、外装変速機と内装変速機の2種類に分かれる。
- 外装変速機
- ディレイラーによってチェーンをスプロケット間で移動させることによって変速する方式。
- 内装変速機
- ハブの内部に設けた歯車を掛けかえることによって変速する方式。
外装変速機
概要
前ディレイラー
チェーン案内
後ディレイラー
シフト方式
シフターの種類
平行四辺形
傾き角
前ディレイラーの調整
後ディレイラーの調整
高ノーマルと低ノーマル
たすき掛け
シフト比
SPCM
シフトメイト
トラベルエージェント
ローラマジグ
ギアインジケータ
プーリ
プーリ回転数
キャパシティ
流体変速システム
概要
変速の原理
スプロケットとチェーンによる変速の原理は次のようになっている。例えば、クランク軸スプロケットの歯数が仮に33歯とすると、スプロケット1回転でチェーンを33リンクだけ受け入れそして送り出すこととなる。一方、後輪のスプロケットの歯数が仮に11歯であると、1回転でチェーンを11リンクだけ受け入れ送り出す。クランクのスプロケットが1回転で送り出した33リンクを受け入れると、後輪スプロケットは33歯/11歯=3より、3回転することとなる。 言い換えると、3回転しないと33リンクを受け入れられない。これにより、クランクの1回転が後輪の3回転に変速されたこととなる。
ディレイラー
後輪軸およびクランク軸にいろんな歯数のスプロケットを取り付け、チェーンをこれらのスプロケット間で掛けかえることが出来れば、変速比をいろいろと変えることができる。このような機能を持った部品はディレイラー(脱線器)と呼ばれている。クランク軸のスプロケット間でチェーンを掛けかえる部品は前ディレイラーそして後輪のスプロケット間でチェーンを掛けかえる部品は後ディレイラーと呼ばれる。スプロケットの回転数から計算すると、変速は1秒以下で(多くの場合0.5秒以下で)行われる。スプロケット間のチェーンの移動(変速)はペダル回転によるチェーンの動きによって行われるので、停止中は変速ができない。
後ディレイラーによるチェーン移動はチェーンの弛み側で行われるのに対し、前ディレイラーによるチェーン移動はチェーンの引張り側で行われるために、力の大きいばねを必要とする。そして電動(Di2)ディレイラーの動力は、前ディレイラーが大きくなる。
シフト比
シフター(後記)でロープ(ケーブル)を引いてデレイラーを動かすが、ディレイラーにはロープの動きを横方向の動きに変換する機能がある。ディレイラーの横方向の動き距離とロープの動き距離の比は、シフト比(後記)と呼ばれる。
変速段数
全体としての変速段数は、クランクスプロケットの段数(枚数)と後輪スプロケットの段数(枚数)を掛け合わせた数となる。例えば、クランクスプロケットが3段で後輪スプロケットのが9段だと、全体としての変速段数は3段 x 9段=27段となる。ただし、ギア比オーバーラップおよびたすき掛けなどを除くと有効変速段数はこれより少なくなる。
参考資料
前ディレイラー
概要
変速のために、クランクスプロケット間でチェーンを移動させる。
構造
チェーンを移動させるためのケージおよびそのケージをスプロケットに対して平行移動させるための平行四辺形のリンク機構で構成されている。ケージは内プレート(内板)および外プレート(外板)でできている。内外のプレートはケージねじで連結してあり、ねじを外すことによってチェーン切りをせずにチェーンを外すことができる。リベットで内外のプレートを連結している形はチェーン切りをしないとチェーンが外せない。ケージの形状は、それが必要とするスプロケット歯数のレンジ(キャパシティ)によって異なる。そのため、ロード2段用、ロード3段用およびMTB用では形状が異なる。ロード2段用(キャパシティ15T)の内プレートは外プレートに対してやや下がっているが、ロード3段用およびMTB用(キャパシティ23T、22T)は内プレートが外プレートよりかなり下がっており、また長さも長い。
ロープ固定ボルト
シフターで平行四辺形リンクを動かすロープは、アームのロープ溝に真直ぐに入れて、ロープ固定ボルト(ピンチボルト)で押して固定する(締付けトルク:5~7Nm)。
動作
ダウンシフト(減速)のときは外プレートでチェーンを左に押して内側のスプロケットに落とす。アップシフト(増速)のときは内プレートでチェーンを右に押して外側のスプロケットへ押付け、そのスプロケットの歯がチェーンを引き上げる。スプロケット側面のピックアップピンで引き上げる形もある。
種類
マウンテンバイク用には、ボトムスイングおよびトップスイングの2種類がある。ボトムスイングは従来の方式で、ケージ位置がクランプ位置より低い。逆に、トップスイングはケージ位置がクランプ位置より高い。トップスイングはボトムスイングとは正反対に、平行四辺形の上リンクにケージを付け、下リンクにフレームに固定するクランプを付けた方式で、ボトムスイングと比べて、シフトレバーの操作に要する力が約30%少ないのが特徴。なお、ロード用は伝統的なボトムスイングしかない。平行四辺形リンク機構のばねの作動方向によって、高ノーマルおよび低ノーマルがある。
最大キャパシティ
正常な変速のために、前ディレイラーの公称(最大)キャパシティは、クランクスプロケットの最大キャパシティより大きくなければならない。シマノの前ディレイラーの公称(最大)キャパシティは、ロード車用が16Tそしてマウンテンバイク用が22Tなど。マウンテンバイク用には大中間スプロケット間の最小キャパシティがあり、それは12T。
例えば、大スプロケット歯数が48Tの場合は、48T-12T=36Tより中間スプロケットの歯数は36T以下でなければならない。
前ディレイラーに必要キャパシティがあるかどうの試験は次のようにして行うことができる。チェーンをクランク最小スプロケットおよび後輪最大スプロケットに掛ける。 ペダルを強く押してチェーンの弛みをとる(チェーンを張る)。チェーンがディレイラーケージのテールの内外プレート連結部と接触する場合(右図)は、スプロケットのキャパシティがディレイラーのキャパシティを超えている。
最小キャパシティ
3段用の前ディレイラーには大・中間(トップ・ミドル)スプロケット間の最小キャパシティがあり、それは12Tまたは10T。
例えば、最小キャパシティが12Tで大スプロケット歯数が48Tの場合は、48T-12T=36Tより中間スプロケットの歯数は36T以下でなければならない。
試験は次のようにして行うことができる。ディレイラーのケージを内から外へ動かして、内プレートが中間スプロケットと当たらずに超えることができれば最小キャパシティを満足している。 最小キャパシティは内プレートの下部の形状および外プレートとの相対的な高さ(オフセット)と関係している。
チェーンステイ角
(A) 本来のチェーンステイ角は、チェーンステイ中心線(BB芯と後輪軸心を結ぶ線)が水平線と作る角度(上図A)。
(B) シマノの前ディレイラーの仕様では、チェーンステイが立管と作る角度(立管-チェーンステイ角度)を、チェーンステイ角と呼んでいる(上図B)。
チェーンはチェーンステイに沿って走るため、立管に固定する前ディレイラーのケージとチェーンの位置関係が適切となるチェーンステイ角のディレイラーを選ぶ。ディレイラーの公称チェーンステイ角はロード車用では61°~66°そしてマウンテンバイク用では63°~66°および66°~69°がある。 実際のチェーンステイ角(B)が公称チェーンステイ角より小さいと、キャパシティが足りない可能性がある。逆に、実際のチェーンステイ角が公称チェーンステイ角より大きいと、ディレイラーには必要以上のキャパシティがあることになる。
チェーンライン
前ディレイラーのチェーンラインはスプロケットのチェーンラインと合っていることが必要。
取付方式
フレームへの取付方法としては、ロード用にはクランプ(バンド)式および直付け式があり、マウンテンバイク用にはクランプ(バンド)式およびEタイプ(E形)がある。
- クランプ式
- クランプでフレームの立管に固定する方式(締付けトルク:5~7Nm)。クランプオンディレイラーと呼ばれる。前ディレイラーのクランプ径は立管径に対応している必要がある。クランプ(バンド)径は取り付ける立管(シート管)の外径に対応して、28.6mm(1-1/8 inch)および31.8mm(1-1/4 inch)の2種類がある。マウンテンバイク用には、その上に34.9mm(1-3/8 inch)もある。これは素材のフレーム管の外径で、実際の外径は塗装厚さだけ厚くなっている。クランプ径が立管径よりも大きいときは、ディレイラーシムを使う。塗装の上から固定するので精密機器とは言えない。クランプ方式は、クランクスプロケットの大きさ(高さ)に対応して、クランプを上下に動かすことができる。 クランプ式とすれば、フレームメーカーには直付け座(ブレーズオン)を付ける手間がかからない。
- 直付け式
- フレームの立管に付けた直付け座にボルトで固定する方式。直付けディレイラーまたはブレーズオンディレイラーと呼ばれる。クランプ式に比べてやや軽くなる。フレームに直付け座が付いていることが必要。立管径および管断面形状にかかわらず対応できる。取付高さの調整ができないので、立管における直付けの座の位置は50T~54Tのクランクスプロケットに対応させていることが多い。 立管に直付け座(ブレーズオン)がない場合は、アダプタークランプで取付ける。
- Eタイプ
- 前ディレイラーに環状穴の開いた取付け板(BBプレート)が付いており、BB(ボトムブラケット)シェルと右BBキャプ(右アダプター)の間に挟んで取り付ける方式。E型ディレイラーまたはEタイプディレイラーと呼ばれる。取付け板を挟むスペースのあるE形(タイプ)の外部軸受のBB(外部ボトムブラケット )が必要。フレームがフルサスペンション、炭素繊維強化樹脂(CFRP)製または立管(シートチューブ)が円形でない非標準のフレームなど、フレームに取り付けることが適切でないフレームに対して使われる。
アダプタークランプ
直付け座(ブレーズオン)に取付ける方式の前ディレイラーをクランプでフレームの立管(シートチューブ)に固定するためのアダプター(適合部品)。ディレイラークランプとも言う。クランプ径は28.6mm(1-1/8)、31.8mm(1-1/4)および34.9mm(1-3/8)がある。 立管の外径は紙を立管に巻きつけてその長さを測り3.14で割ると得られる。又は、ノギスで測る。
ディレイラーシム
クランプ式の前ディレイラーにおいて、クランプ内径と立管外径が異なる場合に、そのすき間を埋めるための環状の適応部品。下表にシムの寸法を示す。
シム | クランプ内径 | 立管外径 |
A | 28.6(1-1/4) | 25.4(1-1/8) |
B | 31.8(1-1/8) | 28.6(1-1/4) |
C | 34.9(1-3/8) | 31.8(1-1/8) |
単位はmm、( )内はインチ。クランプ内径がシムの外径そして立管の外径がシムの内径となる。バンドアダプターまたはクランプアダプターとも呼ばれる。
スイング方式
- ボトムスイング
- 平行四辺形の上リンクにフレームに固定するクランプを付け、下リンクにケージを付けた従来の標準方式。ケージ支点位置がクランプ位置より低い。ロード車用およびマウンテンバイク用がある。ダウンスイングともいう。
- トップスイング
- 従来のボトムスイングとは正反対に、平行四辺形の上リンクにケージを付け、下リンクにフレームに固定するクランプを付けた方式。ケージ支点位置がクランプ位置より高い。ボトムスイングと比べて、シフトレバーの操作に要する力が約30%少なくてよい。マウンテンバイク用のみで、ロード車用はない。
引き方式
ロープ(ケーブル)がディレイラーの下から来るか又は上から来るかによって、下引き及び上引きがある。
- 下引き(ボトムプル)
- 作動用のロープが下(BBシェル)から来る伝統的な方式。主にロード車用として使われているが、マウンテンバイク用もある。ロープがBBシェルの下を通るので、泥はねで汚れやすい。
- 上引き(トッププル)
- 作動用のロープが上(上管)から来て立管の背後を通る方式。ボトムブラケットシェル(BBシェル)の下側に泥跳ねのあるマウンテンバイク用に作られた。当初はマウンテンバイク用にも、ロード車と同じ下引き方式が使われた。上引きのロープ長は下引きより短い。
保守
スムースに動くように、可動部に注油することが望ましい。周りに付いた潤滑油に粉塵などが付着しないように、拭取る。
SPCM
SPCMは、前ディレイラーの動作に指の力を使わずクランクの回転力を利用する機構。変速ボタンを押すと、クランクと共に回転しているラチェット機構が作動して、クランクの回転力でディレイラーのケージを移動させ、チェーンを大スプロケットまたは小スプロケットへ移動させる。常に最適点で変速するため、変速の衝撃が少ない。Nexaveに分類されておりクロスバイクなどに使われる。専用のシフターなどを使う。
チェーン案内
チェーン案内は、前ディレイラーの変速において、チェーンが脱落しないように案内する部品。メーカーは独自の商品名を付けており、例えば次のようなチェーン案内がある。
チェーンキャッチャー
Aceco Sport Group社の商品名。Paris-Roubaixなどの悪路のあるロード競技で、チェーンが振動して変速時に外れるのを防止することを意図している。 直付け式およびクランプに直付けの座が付いた形式のディレイラーに取付できる。材質はアルミ合金。陽極酸化により着色しており、5色の種類がある。質量は10g。
ジャンプストップ
N-Gear社の商品名。フレームの立管に付属のクランプで固定する。適用できる立管の外径は、28.6~34.9mm。クランプ材質はFRPそして案内ブラケット材質はステンレス鋼。質量は30g。案内ブラケットの上下位置の設定は次のように行う。チェーンを最小のクランクスプロケットおよび最大の後輪スプロケットに掛けて、チェーンのリンクピンが案内ブラケットの中央部を通るようにする。 チェーンと案内ブラケットの間隔(すき間)は、1.5~2mmとする。
チェーンウオッチャー
Third Eye社の商品名。主用途はオフロードを走るマウンテンバイク。樹脂製のブラケットを付属のステンレス鋼製のホースクランプでフレームの立管に固定する。ホースクランプは樹脂本体の下部の環状のすき間から差込む。適用できる立管の外径は、28.6~34.9mm。質量は15g。
後ディレイラー
概要
変速のために、後輪スプロケット間でチェーンを移動させる。
構造
プーリをスプロケットと平行に移動させるための平行四辺形のリンク機構および上下2個のプーリの付いたプーリケージで構成されている。 上プーリはチェーンをスプロケット間に案内する役目があり案内プーリと呼ぶ。下プーリはチェーンの張りを維持する機能が与えられており、張りプーリと呼ぶ。
プーリ
プーリはチェーンが掛かっている滑車。上プーリはチェーンをスプロケット間に案内する案内プーリ(ガイドプーリまたはジョッキープーリ )。 下プーリはチェーンに張りを与える張りプーリ(テンションプーリ)。いずれもチェーンとかみ合うよう10T~15Tの歯が付いている。 15Tのプーリはメガプーリと呼ばれることがある。11Tプーリは当初はMTB用に導入された。プーリには玉軸受が付いている形が多い。稀に、セラミック軸受もある。プーリの材質は、軽量化および騒音低減のために合成樹脂(プラスチック)が多い。アルミ合金製もある。歯数が多いとプーリ回転数が低下するために、騒音は小さくなる傾向にある。その上、チェーンの折り曲げ半径が大きくなるので、伝動効率が少しは良くなる。
動作
小スプロケットから大スプロケットへチェーンを移動する(持上げる)ときは、デイレイラーのばねに抗して、シフターでシフトロープを引き案内プーリを動かす。大スプロケットから小スプロケットへチェーンを移動する(落とす)ときは、シフターのロープでデイレイラーのばねの張力を解除すると、案内プーリは元の位置に戻る。
ケージ長
ケージ長は案内プーリと張りプーリの芯間距離。ケージ長には、短(ショート)、中(ミディアム)および長(ロング)がある。それぞれのケージは、短ケージ、中ケージおよび長ケージと呼ぶ。ケージ長が長いほどキャパシティが大きい。短ケージ(ショートケージ)の相対的な利点は、軽量かつ変速が迅速であること及び距離的、面積的に泥はねの影響を受けにくいこと。ケージの長さの支点は、平行四辺形のケージ支持部にありその中にあるねじりコイルばねによって後方へ回転する力を与えることによって、チェーンに張りを与え弛みを取っている。ケージ長はメーカーによって異なるが、一例を表に示す。
キャパシティ
張りプーリを振り子と見なした場合、振り幅が大きいほどチェーンのたるみを取る容量(キャパシティ)が大きい。言い換えれば、ケージが長いほど容量は大きい。
車種 | キャパシティ | ||
---|---|---|---|
短ケージ | 中ケージ | 長ケージ | |
ロード車 | 29T (SS) | - | 37T (GS) |
MTB | - | 33T (GS) | 43T (SGS) |
ケージ長、mm | 50 | 74 | 86 |
スラント角
ロード用およびマウンテンバイク用では、平行四辺形面の傾き角(スラント角)が異なる。
動き比
動き比(ディレイラーを動かすロープの動き距離とディレイラーの動き距離の比)は1:2(シマノなど)および1:1(SRAM)の2種類がある。
シャドウディレイラー
マウンテンバイク用の後ディレイラーが岩および木の幹などの障害物に当たる確率を小さくするために、左右方向の厚みを薄くした形式に付けたシマノの名称。従来のディレイラーに比べて、11~18mm薄い。ロープとアウターの摩擦を少なくして応答性を良くするために、その経路が短くなるようにしている。垂直方向の安定性を良くして、起伏の大きい地面においてもチェーンステイと当たらないようにしている。短ケージおよび長ケージがある。シャドウは影のように薄いという意味。
シャドープラスディレイラー
シャドーディレイラーのディレイラーケージの軸に摩擦クラッチを付け加えた後ディレイラー。摩擦クラッチはケージが前方に動いたときのみに作動する。マウンテンバイクの荒野走行におけるチェーンのばたつきを防止する。その結果、チェーンステイに当たる騒音及び傷の防止並びにチェーンの脱落を防止する。シフトはやや重くなる。クラッチは金色のボタンで解除できる。クラッチの摩擦力は、クラッチカバーを外して調節する。
ディレイラーハンガー
後つめ(ドロップアウト)とハンガーが一体の型及びハンガーが独立でつめに取り付ける型がある。独立型はねじでつめに固定する。U形の切り欠きに車軸が付く。下のねじ穴に六角穴付きボルトで後ディレイラーを固定する。マウンテンバイクにおいてオフロードの何かに当たって曲がったとき、修正または取替えができる。
保守
ディレイラーがスムースに動くように、可動部に注油することが望ましい。回りに付いた潤滑油に粉塵などが付着しないように、拭取る。
シフト方式
ディレイラーを動かす操作器をシフターと言う。ハンドルからの遠隔操作となるため、力および移動量の伝達手段としてロープを使う。ディレイラー、シフターおよびロープを一体にして変速機が構成される。シフターの位置決め方式としては、摩擦シフトおよびインデックスシフトがある。
- 摩擦シフト
- シフトレバーが変速域を無段階そして連続的に動く変速シフト方式。レバー位置はチェーンがスプロケット間を移動した(変速した)という人の感覚で決め、その位置はレバー支点の摩擦力で保持される。 また、レバーはその摩擦力に抗して動かす。
- インデックスシフト
- 変速機のシフトレバー位置を、人の感覚でなく機械的に決める方式。ディレイラーがそれぞれのスプロケット位置に動くよう、シフターが不連続的に位置決め固定される。変速位置が指示器に表示が出る形もある。インデックスは、位置決めするという意味。1949年に英国のHercules Herailleur がインデックスシフトレバーを付けた後ディレイラーを5年間販売したのが最初。インデックスシフトと摩擦シフトを切り替えできるものもある。インデックスシフトが作動不良になった時は、摩擦シフトに切り替えて使う。シマノのインデックスシフト方式はSISと呼ばれ1985年に市販された。
シフターの種類
デュアルコントロールレバー
ブレーキレバーおよびシフトレバーを一体化したレバーのシマノの名称。ハンドルから手を離さずに、変速およびブレーキ操作が可能。ロード車用(STI、ドロップハンドル用)およびマウンテンバイク用(平ハンドル用)がある。
- ドロップハンドル用(STI)
- ブレーキレバーとシフトレバーを上下に重ねてあり、右手で後ブレーキと後ディレイラーを操作し、左手で前ブレーキと前ディレイラーを操作する。左右とも、ブレーキレバーを中央側へ動かすと、チェーンが大スプロケットへと移動する。シフトレバーを中央側へ動かすと、チェーンが小スプロケットへと移動する。シフトロープの引きは、ラチェット機構で行っている。
- 平ハンドル用
- 平ハンドル用はブレーキレバーを下に押すとチェーンは小スプロケットへ移動する。ブレーキレバーを上に上げるとチェーンは大スプロケットへ移動する。
エルゴパワー
ドロップハンドル用のブレーキレバーとシフトレバーを一体にしたカンパニョーロ方式の商品名。シマノのSTIの成功を追って開発された。
ブレーキレバーの背後の副レバーを、薬指と小指で内側へ押すと、チェーンは大スプロケットへ移動する。本体内側の指レバーを、親指で押すとチェーンは小スプロケットへ移動する。アップシフトとダウンシフトでは別の指を使うので誤操作が無い。STIには指レバーはない。レバーの材質は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)。樹脂にメッキすると金属のように見える。
STIとエルゴパワーの外観上の違いを下表に示す。
項目 | STI | エルゴパワー |
---|---|---|
レバー | ブレーキレバーはシフトレバーと共用。 | ブレーキレバーはブレーキ専用。 |
アウター | ブレーキ用はバーテープ下となるがシフター用は外に出る。 |
ブレーキ用およびシフター用共にバーテープの下となる。 |
エルゴパワーはハンドル前にアウターが出ていないので、ハンドルバッグの取付ができる。ブレーキレバーの背面にあるシフトレバーは、STI ではチェーンを小スプロケットへ移すのに対し、エルゴパワーでは大スプロケットへ移すという違いがある。
バーエンドシフター
ハンドルの管端に付けるシフター。1990年初期にSTIが出現するまで、ドロップハンドルに使われていたが、現在も使われている。旅行車などに使われることがある。競技車には使われない。
ドロップハンドル、バーエンド、エアロバー及びリカンベントのUSSハンドルに使用できるが、操作上フラットバーには向かない。フリクション(摩擦)とインデックスの切り替えができる形もある。 インデックスが故障したときは、摩擦に切り替えて使う。8段、9段および10段用がある。
ハンドルの管端にシフターの幹部を差し込んで六角レンチでねじを締めると、幹部が広がり固定される。使用できるハンドル管端の内径は、19~22mm(シマノ製の場合)。
下管シフター
- 概要
- フレームの下管(ダウンチューブ)の上部横に付けるシフター。ダウンチューブシフターとも言う。下管の片側のみに付けるシングルレバー(後ディレイラーを操作)および下管の両側に一対に付けるダブルレバー(前後ディレイラーを操作)がある。
- 前ディレイラー及び後ディレイラーにそれぞれ1個のレバーが対応する。ブレーズオンに取付けるか又は付属のクランプで取付ける。2例の写真の内、右のものは下管に付けるクランプが付いている。操作するときは操作する手をハンドルから離す。立ち漕ぎをしながらの操作は困難。
- SISと摩擦式を切り替えできるものもある。SISが作動不良になった時は、摩擦(フリクション)に切り替えて使う。
- 利点
- STIに比べて、機構が複雑でなく安価、軽量そしてアウター及びロープ(ケーブル)が短いという利点がある。変速回数の多い後ディレイラーにはSTIを使い、変速回数の少ない前ディレイラーには下管シフターを使って、全体として質量を減らすという方法もある。
- ハンドル、ステム取付
- 平ハンドルに取付けるためのクランプ部品がある。特殊な例として、クイルステムに取り付けた形がある。下管シフターと言うよりは、クイルシフターとでも言うべき例。
サムシフター
平ハンドルに取り付け、親指(サム)などで操作するレバー式シフター。1990年代初期までマウンテンバイクで使われた親指シフターの形式を指すことが多い。その後現れたラピッドファイアーシフターも一種の親指シフター。3段、4段、5段、6段、7段、8段、9段及び10段がある。
ラピッドファイアー
マウンテンバイクなどの平ハンドルに付け、親指と人差し指で操作するシマノのシフター。 親指で解除レバーを押すとチェーンは小スプロケットに移動し、送りレバーを人差し指で引くと大スプロケットに移動する。 ただし稀に、ディレイラーの形式によっては、逆の動きとなる(親指で押すと大スプロケットへ移動し、人差し指で引くと小スプロケットへ移動する)。 7段、8段、9段及び10段がある。ブレーキレバーと一体になった形式もある。一般用語としてのラピッドファイアーは"矢継ぎ早やの"という意味。
グリップシフター
握り回転式シフター。ハンドルの握りの根元に付けたディレイラー用グリップを親指と人差し指で握って回転させることにより、ディレイラーを移動させる。グリップを回すとその中の溝にロープを巻きつけてロープを引っ張り、ディレイラーを移動させる。どのスプロケットが使われているかを示す指示器が付いている。人によっては、レバー式シフターより操作がしやすい。ツイストシフターおよびレボシフター(シマノ語)とも呼ばれる。ブレーキレバーと一体の形もある。 マウンテンバイクおよびシティ車などに使われる。
アイスペック (I-spec)
シマノのシフトレバーとブレーキレバーの一体型マウントシステム。ハンドル付近のスペースを広くし、軽量化を図る。SLX、XT及びXTRの間で互換性がある。標準のXT及びXTRをアイスペックに変換するブラケットがある。
平行四辺形
定義
2組の対辺が互いに平行な四辺形は平行四辺形と呼ばれる。角(かど)の角度をどのような角度にしても、対辺は常に平行であるという特徴がある。なお、電車のパンタグラフは、下に押し下げると対辺が平行でなくなるので、平行四辺形とは言えない。
歴史、応用
カンパニョーロはこの原理を平行四辺形のリンク機構にして、ディレイラーに応用した。1949年に後ディレイラーのプーリの平行移動に、そして1960年に前ディレイラーのケージの平行移動に応用し、現在も各社で使われている。
原理
前ディレイラーの平行四辺形を模式図にして上に示す。
緑色および青色の平行四辺形は同一のものであるが、相対的に変形した状態を表している。平行四辺形と一体となっているアームに付いたロープをシフターで引くと平行四辺形は変形してケージを左右に平行移動させる。緑色は小スプロケットへケージ(従ってチェーン)を移動させた状態そして青色は大スプロケットへケージを移動させた状態を表している。
構造
平行四辺形に強度をもたせるため、箱のように厚みのある構造(ワイドリンク)となっている。後ディレイラーの平行四辺形は見えやすいので右写真に示す。 軸(ピボット)A、B、CおよびDを結ぶ直線が平行四辺形となっている。軸CおよびDの位置はフレームに対しては固定点となっており動かない。軸AおよびBは、軸CおよびDを支点としてスプロケットに平行移動する。平行四辺形の対角線上の軸BとDを結んでコイルばねが付いており、ロープの引っ張り力に対抗して平行四辺形の形状を保持している(言い換えれば、プーリの左右方向の位置を決めている)。軸A~Dに注油することが望ましい。
動き
リンクBC部より内側に出たアーム端にはロープ固定ボルト(ピンチボルト)によってロープの一端が固定されており、ロープを引くとリンクABに付いたケージおよびプーリは大スプロケットの方へ平行移動する。 ロープを緩めると、コイルばねの力でプーリは小スプロケットの方へ平行移動する。
傾き角
サンツアーは後ディレイラーの平行四辺形面を車軸に対して傾けて、その傾き角(スラント角)をスプロケット群の歯先をなぞった円錐形の半頂角に対応させることによって、大きさの異なるスプロケットに対しても案内プーリーとスプロケットの間隔を一定に保つようにして変速性能を向上させた。そのため登坂の負荷時においても変速が容易となった。
マウンテンバイクのスプロケット群はワイドレシオのため、クロウスレシオのロード系(傾き角約30゜)より大きな傾き角(約45゜)となっている。従って、スプロケット群に合った後ディレイラーを使用することが望ましい。なお、クロウスレシオおよびワイドレシオのカセットに応じて、傾き角を調節できるディレイラーも出現している。
この傾き平行四辺形を持った後ディレイラーは、サンツアーが1964年に特許を取得した。これは、左右にしか動かなかったディレイラーをスプロケットの大きさに合わせて上下にも動くようにした機構。高性能のディレイラーとの世界的な評価があり、特許が切れた1984年以降、シマノおよびカンパニョーロ等が採用した。 SIS(シマノ インデックス システム)には案内プーリと各スプロケット間の間隔が一定であることが条件となる。そのため、シマノはSISの導入にあたり、1984年にサンツアー(前田工業)の特許が切れるのを待たなければならなかった。
前ディレイラーの調整
- 取付(クランプ)位置
- 立管に固定するクランプの取付位置(上下及び向き)は、次の(1)及び(2)の条件を満足する位置とする。
- (1) ケージの外プレートの平らな部分が大スプロケットの真上で、大スプロケットと平行になるようにする。
- (2) 外プレートの下部と大スプロケットの歯の先端とのすき間を、大スプロケットの真上で、2mmになるようにする(上図)。
- ケージは下から上へ移動して途中では高さが異なるので、途中で設定しないことが望ましい。
- ケージの横移動制限
- 調整はケージ(内プレート及び外プレート)が変形していないことが前提となる。ケージは平行四辺形の下部に付いており、シフターからのロープの引きによって平行四辺形を変形させると、その変形によってケージは横方向に移動する。 L(ロー)およびH(トップ)の制限ねじで平行四辺形の動きを制限することにより、内側および外側へのケージの動きを制限する。 平行四辺形に付いたL用およびH用のストップタブ(耳)に、それぞれの制限ねじの先端が当たっている。内外のどちらのねじがLであるかは、新旧等の機種によって異なる。LおよびHの刻印がある。後ディレイラーの案内プーリの位置の影響を受けるので、後ディレイラーの調整後に行う。
- L(ロー)制限ねじ
- 準備として、チェーンをクランクの最小スプロケットそして後輪の最大スプロケット(何れも最内側のスプロケット)に移しておく。ケージが最小スプロケットから内側へ移動しないようケージの内側への動きを制限する。制限範囲は制限ねじを緩めると広がり、締めるとせばまる。内プレートとチェーンの隙間が0~0.5mmとなるように調整する。
- H(トップ)制限ねじ
- 準備として、チェーンをクランクの最大スプロケットそして後輪の最小スプロケット(何れも最外側のスプロケット)に移しておく。ケージが大スプロケットから外へ移動しないようケージの外側への動きを制限する。制限範囲は制限ねじを緩めると広がり、締めるとせばまる。 外プレートとチェーンの隙間が0~0.5mmとなるように調整する。
- ロープ張力の調整
- シフターに付いているロープアジャスター(上図)でロープの張力を変えることにより、スプロケット間のチェーンの移動具合が変る。 左に回す(ロープを張る)と大スプロケットへチェーンが移行しやすくなる。右に回す(ロープを緩める)と小スプロケットへチェーンが移行しやすくなる。 大スプロケットへの移動が迅速でない場合は、左に回す。左に回すと、ケージが外側へ動く(外側に大スプロケットがある)。
- 作動範囲
- 前ディレイラーが正常に機能するロープアジャスターの回転位置には範囲(作動範囲)がある。ディレイラーの汚れ、磨耗及びロープの弛みなどによって、再調整が必要となることがある。作動範囲が狭いと、再調整の必要性が早まる。動作範囲が広いと、再調整を必要とするまでの乗車時間は長くなる。従って、動作範囲が広いことが望ましい。メーカー及び形式で異なるが、新品ではロープアジャスター約1/2回転の作動範囲がある。ディレイラーの取付位置が正しくないと、作動範囲は狭まる。
- 微調整
- (1) 大スプロケットから小スプロケットへ変速しにくい → L(ロー)制限ねじを反時計方向に1/8回転ほど緩める。
- (2) チェーンがフレーム側へ落ちる → L(ロー)制限ねじを時計方向に1/4回転ほど締める。
- (3) 小スプロケットから大スプロケットへ変速しにくい → H(トップ)制限ねじを反時計方向に1/8回転ほど緩める。
- (4) チェーンがクランク側へ落ちる → H(トップ)制限ねじを時計方向に1/4回転ほど締める。
後ディレイラーの調整
案内プーリの横移動制限
平行四辺形に付いている制限ねじ(調整ねじ)で、案内プーリの移動範囲を設定する。 制限ねじの位置はメーカーによって異なることがある。LおよびHの刻印がある。
- L(ロー)制限ねじ
- 設定の準備として、チェーンをクランクの最小スプロケットそして後輪の最大スプロケット(何れも最内側のスプロケット)に移しておく。案内プーリの内側への動きを制限する。最大スプロケットから内側へ移動しないようL制限ねじ(ロー調整ねじ)で設定する。制限範囲はねじを緩めると広がり、締めるとせばまる。後から見て案内プーリが最大スプロケットと一直線に並ぶように調整する。
- H(トップ)制限ねじ
- 設定の準備として、チェーンをクランクの最小スプロケットそして後輪の最大スプロケット(何れも最内側のスプロケット)に移しておく。案内プーリの外側への動きを制限する。最小スプロケットから外へ移動しないようH制限ねじ(トップ調整ねじ)で設定する。制限範囲はねじを緩めると広がり、締めるとせばまる。後から見て案内プーリ中心線が最小スプロケットの外面と一直線に並ぶように調整する。
案内プーリの縦移動制限
案内プーリとスプロケットの上下間隔が狭いほど、迅速な変速ができる。この間隔の微調整は、B張力調整ねじで行う。間隔は調整ねじを右に回すと広がり、左に回すと狭まる。チェーンをクランクの最小スプロケットおよび後輪の最大スプロケット(何れも最内側のスプロケット)に掛け、クランクを逆回ししてチェーン詰まりしない位置まで、案内プーリをスプロケットに近づけることにより、変速が迅速になる。最大スプロケットで接触しなければ、他のスプロケットでも問題はない。 ディレイラー全体が前後に旋回する軸部には、ねじりばねが付いている(外からは見えない)。このばねの張力を調整して、ディレイラーの振れ角を変える。 前方へ振れると、案内プーリはスプロケットに近づく。スプロケットの歯数を変えた時およびチェーンの長さを変えた時は、調整が特に必要。
- ロープ張力の調整
- ディレイラーに付いているロープアジャスターでロープの張力を変えることにより、スプロケット間のチェーンの移動具合が変る。左に回す(ロープを張る)と大スプロケットへチェーンが移行しやすくなる。右に回す(ロープを緩める)と小スプロケットへチェーンが移行しやすくなる。大スプロケットへの移動が迅速でない場合は、左に回す。左に回すと、案内プーリが内側へ動く(内側に大スプロケットがある)。
高ノーマルと低ノーマル
ディレイラーの動きの一方向はシフターを指で引いた時のロープの力そして他方向はデイレイラーに付いた戻しばねの力で作り出すようになっている。 戻しばねで動かす方向に着目した時、ばねが高速方向に動かすのを高ノーマル(ハイノーマルまたはトップノーマル)と言う。一方、ばねが低速方向に動かすのは低ノーマル(ローノーマル)と言う。言い換えると、ばねの力で落ち着く(ノーマル)方向が高速(小スプロケット)なら高ノーマルそして低速(大スプロケット)なら低ノーマルとなる。それぞれ一長一短がある。全てのロード車用および多くのマウンテンバイク用の後ディレイラーは、高ノーマルとなっている。
参考: 高ノーマルと低ノーマル
たすき掛け
チェーンのたすき掛け(クロスオーバー)とは、チェーンを最小前スプロケットおよび最小後スプロケット(小-小 スプロケット)に掛けるか、または最大前スプロケットおよび最大後スプロケット(大-大 スプロケット)に掛けることを言う。
前スプロケット群は外に行くほど大きくなっているのに対し、後スプロケット群(クラスターまたはカセットとも呼ばれる)は逆に外に行くほど小さくなっている。そのため、小さいスプロケット間または大きいスプロケット間にチェーンを掛けると、たすき掛けとなる。前スプロケットはハの字形に後方に広がっているチェーンステイと当たらないよう小さいスプロケットが内側に来ている。
たすき掛けは、チェーンに横方向の力が働くので、チェーンの伝動効率を低下させる。また、スプロケットの歯およびチェーンの磨耗を早める。小スプロケット間のたすき掛けは、チェーンが最もたるんだ状態となる。たすき掛けは好ましくなく、たすき掛けをしなくともそれと近似のギア比となるスプロケットの組合せは存在する。
後ディレイラーのキャパシティには、たすき掛けも含まれている。たすき掛けをしないことを前提にすれば、必要キャパシティが減りショートケージが使える場合もある。ただし、誤ってたすき掛けをした時のリスクはある。
シフト比
ディレイラーはロープの動きをディレイラーの横方向の動きに変換する。シフターによる所定の引き距離は、スプロケットピッチに対応した動きとする。
シフト比はディレイラーの横方向(スプロケット間)の動きとディレイラーのロープ(ケーブル)の動きの比であり、式で表すと:
シフト比 = ディレイラーの横方向の動き距離/ロープの動き距離
例えば、シマノの後輪スプロケット8段はスプロケットピッチが4.8mmでシフターロープの動き距離が約2.8mmなので、シフト比=4.8/2.8=1.7となっている。シフト比が1.7なら、ディレイラーはロープの動きの1.7倍横方向に動く。シマノのシフト比は1.7であるのに対し、カンパニョロは1.5そしてSRAMは1.1となっている。ただし、昔(1985年~1997年)のDura-Aceのシフト比は1.9であった。
シフト比はディレイラーの平行四辺形の形状およびロープの取付位置で決まる。
引き距離を変換して、カンパニョロのシフターでシマノの後ディレイラーを操作できるようにする部品としてシフトメイトなどがある。
SPCM
シマノパワーチェンジメカニズムの頭文字。前ディレイラーの動作に、指の力を使わずクランクの回転力を利用する機構。変速ボタンを押すと、クランクと共に回転しているラチェット機構が作動して、クランクの回転力でディレイラーのケージを移動させ、チェーンを大スプロケットまたは小スプロケットへ移動させる。常に最適点で変速するため、変速の衝撃が少ない。Nexaveに分類されておりクロスバイクなどに使われる。専用のシフターなどを使う。
シフトメイト
シマノとカンパニョーロはシフターによるロープの引き距離が異なる。シフターのロープの引き距離を変換して、カンパニョーロのシフターでシマノの後ディレイラーを操作できるようにする(またはその逆にする)部品としてシフトメイト(Jtek Engineering社の商品名)がある。写真は後ディレイラーに付けた例。 同じ回転をして直径の異なるプーリが2個重なっており、このプーリにロープを巻きつける。例えば、大プーリに巻きつけたロープを引くと、小プーリに巻かれたロープは、直径の割合で少なく引かれる。大プーリと小プーリの間に一箇所切り欠きがあり、そこで大小プーリのロープがつながっている。アウターの曲がり部を短くして、ロープとアウター間の抵抗を減らすために使うこともできる。
トラベルエージェント
Vブレーキに付けてアーム比を変えることにより、一般のブレーキレバーで操作できるようにする部品としてトラベルエージェント(Quality Bicycle Products社の商品名)がある。アウターの途中に付けるインライン形もある。2個の直径(約16mm及び約32mm)の異なる同芯のプーリを組み合わせて、ブレーキロープ(ケーブル)の引き距離を変える構造となっている。引き距離が変わると、ブレーキロープの動き距離とブレーキレバーの動き距離の比も変わる 主にドロップハンドルに使われるSTIなどのアーム比を変えてVブレーキに使えるようにする。STIで機械式のディスクブレーキを作動させることもできる。 カンティブレーキなどではロープの引き距離は12~16mmであるのに対し、Vブレーキは少なくとも25mmのブレーキロープの引き距離が必要。トラベルエージェント(移動距離変換器の意味)はブレーキロープの移動・行程(トラベル)を倍にする。前後輪のそれぞれのVブレーキに付ける場合は2個必要となる。
ローラマジグ
後ディレイラーのアウターの曲がりを最小限として短くし、ロープとアウターの摩擦を減らすことを意図した部品。SRAM社Avid部門の商品名。ロープを曲げて案内する一種のプーリ。小さな半径でロープを曲げるという問題あり。後ディレイラーのアジャスターに取付ける。合成樹脂製で灰色、黄色および赤色の3色がある。
ギアインジケーター
使用しているスプロケット(段)を示す指示器。シフターのロープ出口とアウターの間に取付ける直列形は、10段(10速)用および9段(9速)用がある。 6段(6速)はダイヤル形がある。シフターと指示器が一体となった形もある。
プーリ
概要
後ディレイラーに付いていてチェーンが掛かっている滑車。
種類
上プーリはチェーンをスプロケット間に案内する案内プーリ(ガイドプーリまたはジョッキープーリ )。下プーリはチェーンに張りを与える張りプーリ(テンションプーリ)。チェーンとかみ合うよう歯が付いている。
歯数
10~15T。11Tプーリは当初はマウンテンバイク用に導入された。15Tのプーリはメガプーリと呼ばれることがある。歯数が多く大きいほど駆動系の消費動力はわずかに少ない。
軸受
プーリには小形玉軸受が付いている形が多い。 稀に、セラミック軸受もある。
材質
プーリの材質は、軽量化および騒音低減のために合成樹脂(プラスチック)が多い。アルミ合金及びチタン合金もある。
色
アルミ合金製は陽極酸化によって各種の色に着色したものがある。
回転数
自転車の回転部品の中では、プーリの回転数が最も大きい。歯数が多いと回転数が低下するために、騒音は小さくなる傾向にある。その上、チェーンの折り曲げ半径が大きくなるので、伝動効率が少しは良くなる。
質量
7~14g。
プーリ回転数 計算器
自転車の回転体の中では、プーリの回転が最も早い。次にハブの回転が速い。プーリの回転数は次式で求められる。
プーリ回転数 = ペダル回転数 x (クランクスプロケット歯数/プーリ歯数)
次の計算器でプーリの回転数が計算できる。
ペダル回転数および前スプロケット(クランクスプロケット)の歯数を半角数字で入れて、「計算」を押して下さい。プーリ回転数が計算できます。
- 計算例
- ペダル回転数(ケイデンス)70rpm、前スプロケット歯数52Tそしてプーリ歯数10Tのとき、プーリ回転数は364rpmとなる。これはペダル回転数(クランク軸回転数)の5.2倍の速さ。
キャパシティ
前ディレイラーおよび後ディレイラーには、チェーンに対するそれぞれのキャパシティ(容量または能力)がある。前ディレイラーの最大キャパシティは小スプロケットから大スプロケットへチェーンを持ち上げる能力を表している。後ディレイラーのキャパシティは後ディレイラーがチェーンのたるみを取る能力を表している。
参考: ディレイラーのキャパシティ
流体変速システム
流体によってディレイラーを作動させるシステム。主な用途はマウンテンバイク。シフター、前ディレイラー及び後ディレイラーも流体式となっている。シフターの型式はサムシフターとなっている。
利点は、シフトが早く正確でケーブルの磨耗がなく、システムの質量は機械式よりも小さいこと。チューブ及び流体の質量は、アウター及びケーブルの質量よりも小さい。欠点は、大変高価なこと。
電子変速機(Di2)
概要
シマノのデュラエースの電子制御シフトシステム。機械式のケーブル(ロープ)は使わない。電気式SISシフター、電気式前ディレイラー、電気式後ディレイラー、バッテリー、配線及び充電器で構成されている。その他の部品は、デュラエースグループのものを使う。取付位置は機械式と同じ。
特徴
機械式のケーブル(ロープ)及びアウターによって生じる問題がない。シフトが早く正確。用途は主に競技用。高価。
シフター
シフトはシフトボタン(固体スイッチ)操作で行う。ボタン位置は機械式のSTIに対応している。操作に力はいらない。機械式のように大きく動かず、動きは約2mm。ブレーキレバーのエンボスの付いたボタンを押すとチェーンは大スプロケットへ動き、レバーから後方へ出っ張ったボタンを押すと小スプロケットへ動く。フードに機械式シフターの部品を入れる必要がないので、形状は人間工学設計ができる。
フライトデッキコンピューターと接続できる。質量は255g。タイムトライアル(TT)バイク及びトライアスロンバイクに使うブレーキレバー/シフター及びバーエンドシフターもある。
サテライトシフター
スプリンターがドロップハンドルのドロップ部を握った状態で後ディレイラーをシフトさせるシフトボタン(上図の赤矢印)。右手側のシフターでダウンシフトそして左手側のシフターでアップシフトを行う。
前ディレイラー
CPUを搭載している。プログラムされた自動作動となっている。サーボモーターで動く。ケージはチェーンをこすらないよう、後ディレイラー位置に対応して動く。後ディレイラーはチェーンの弛み側でチェーンを移動させるのに対し、前ディレイラーはチェーンの張り側でチェーンを移動させるので、後ろディレイラーよりはるかに動力の大きいサーボモーターが付いている。
ケージの移動を制限するL(ロー)制限ねじ及びH(トップ)制限ねじが付いている。最大スプロケット歯数は、50~56T。最大キャパシティは16T。 質量は124g。チェーンラインは43.5mm。
後ディレイラー
プログラムされた自動作動となっている。サーボモーターで動く。案内プーリの移動を制限するL(ロー)制限ねじ及びH(トップ)制限ねじが付いている。対応するスプロケット歯数は、最大が27Tそして最小が11T。トータルキャパシティは32T。質量は225g。
バッテリー
7.4Vリチウムイオンバッテリー。バッテリー受けは、ブラケットでボトルケージの座などに付ける。質量は68g。充電器が付属している。公称使用可能距離は1000km。充電時間は90分。
配線(ワイヤーハーネス)
シフター用及びディレイラー用で一組となる。シフター用は左右のシフターと接続する。ディレイラー用の短い配線は前デイレイラーと接続し、中間の長さの配線は後ディレイラーと接続し、そして長い配線はシフター用のコネクターと接続する。バッテリー受けとも配線されている。シフター用の長さは、フレームの大きさに応じて、S、M及びLの3種類がある。
名称
語源のDigital Integrated Intelligenceは、Digitalの後にIntegrated及びIntelligenceの2つのI(i2)が続いているのでDi2と呼んでいる。
内装変速機
概要
歴史
特徴
遊星歯車
後輪ハブ変速機
クランク軸変速機
無段変速機
総合ギア比 計算器
概要
内装変速機としては、その取付位置によって、後輪ハブ変速機およびクランク軸変速機がある。外装変速機がスプロケットで変速するのに対して、内装変速機は遊星歯車を使って変速する。潤滑はメーカーにって、グリース方式および潤滑油方式がある。
歴史
最初の内装変速機は、1878年に英国のスコットとフィロットが特許を取った、前輪駆動のハブに内装したものであった。その後、1902年に英国のSturmey Archer社が3段の内装変速機の特許を取った。シマノは1957年から3段の内装変速機の生産を始めた。
特徴
停止時にも変速ができる。外装変速機には使えないチェーンケース を使うことができる。チェーンラインが真直ぐとなる。雨および埃の影響を受けない。外装変速機に比べて質量が大きい。外装変速機は、前ディレイラー及び後ディレイラーで変速するという複雑さがあるが、内装変速機は1つのシフターで変速するのでメカに強くない女性にも向いている。
遊星歯車
遊星歯車の特徴は小形にできること及び入出力軸を同一軸芯にできることなど。遊星歯車機構の部品は、太陽歯車、遊星歯車、環歯車および遊星キャリアとなっている。遊星キャリアで支持した3個の遊星歯車は、中央の太陽歯車および内側に歯を持つ環歯車とかみ合っている。一例として、太陽歯車を入力軸とし、遊星キャリアを出力軸としたときのギア比 = (環歯車歯数)/(太陽歯車歯数)となる。
後輪ハブ変速機
概要
後輪ハブの中に組み込んだ歯車(ギア)によって変速する変速機でハブギアとも言う。変速機を内装していないハブに比べ、ハブが太くなっているので一見して分かる。
ディスクブレーキ用のローターの付いた内装変速機もある。これは、雨または雪の日にも走ることのある通勤自転車に向いている。停止時に変速できるので、テクニカルトレイルを走るマウンテンバイクに使われることもある。
特徴
防塵、防水性があり、またグリスが封入されているので注油の必要がなく、外装変速機より磨耗が少ないので寿命が長い。保全(メインテナンス)の必要性が少ないのでシティ車に使われることが多い。 質量は外装変速機より大きいが、長いチェーンを必要としない。チェーンラインは真直ぐとなる。チェーンケースを使ってチェーンを覆うことができる。変速操作は停止時においても可能なので低速(低ギア比)からスタートすることもできる。
駆動方式
駆動方式で見ると、チェーンを使用しないベルト駆動およびシャフト駆動の自転車には内装変速機が使われる。
変速段数
変速の段数は、3段、4段、7段、8段、11段及び14段などがある。それぞれの変速比(ギア比)は、表1、表2、及び表3に示す。
段数 | 3段 | 4段 | 7段 | 8段 | 11段 |
---|---|---|---|---|---|
ギア比 | 0.733 1.00 1.36 |
1.00 1.244 1.50 1.843 |
0.632 0.741 0.834 0.989 1.145 1.335 1.545 |
0.527 0.644 0.748 0.851 1.00 1.223 1.419 1.615 |
0.527 0.681 0.770 0.878 0.995 1.134 1.292 1.462 1.667 1.888 2.153 |
自己ギア比 | 1.86 | 1.84 | 2.49 | 3.07 | 4.09 |
段数 | 3段 | 5段 | 7段 | 8段 |
---|---|---|---|---|
ギア比 | 0.75 1.00 1.33 |
0.625 0.75 1.00 1.333 1.60 |
0.60 0.69 0.80 1.00 1.24 1.45 1.68 |
1.00 1.28 1.45 1.64 1.86 2.10 2.38 3.05 |
自己ギア比 | 1.77 | 2.56 | 2.80 | 3.05 |
段数 | 14段 |
---|---|
ギア比 | 0.279 0.316 0.36 0.409 0.464 0.528 0.6 0.682 0.774 0.881 1 1.135 1.292 1.467 |
自己ギア比 | 5.26 |
同表の8段の自己ギア比(ギアレンジ)3.06(306%)は、10段の後輪スプロケット12T-27Tの自己ギア比(ギアレンジ)2.25(225%)より大きい。外装変速機では、たすき掛け及びギア比重なりは使えないので実際に使える段数は見かけの段数の60%程度。例えば、前3段x後8段は見かけは3x8=24段であるが 実際に使える段数は24段x60%=約14段程度。一方、内装変速機は100%の段が使える。従って、内装変速機の14段は外装変速機の24段に対応する。一般に、内装変速機は外装変速機(ディレイラー式)よりもギアレンジが大きいが、レシオも大きい。
総合ギア比
自転車としての総合ギア比は、クランクスプロケットと後輪スプロケットのギア比(外装ギア比)と内装ギア比を掛け合わせたギア比となる。
総合ギア比 = 外装ギア比 x 内装ギア比
ロックナット間距離
ロックナット間距離(OLD)およびハブのスポーク穴数は、表4に示す。
段数 | ロックナット間距離 [mm] |
スポーク穴数 | 記事 |
---|---|---|---|
3段 | 120 | 20、28、36 | |
4段 | 130 | 28、36 | 生産中止 |
7段 | 130 | 36 | |
8段 | 132 | 36 | |
11段 | 135 | 32、36 |
ロックナット間距離とはハブ軸の左右のロックナット外面間またはそれに相当する外面間の距離で、 チェーンステイの左右つめ内面間の距離(内幅)に対応する。
スポーク穴数
内装変速機にはスポークを取付けるためのフランジが付いている。フランジのスポーク穴数を表4に示す。
レシオ
ケイデンス(ペダル毎分回転数)を変えずに変速を切り替えたとき、速度が速くなる割合(ギア比が大きくなる割合)をレシオという。内装変速機のレシオをグラフにして下図に示す。縦軸はレシオ[%]そして横軸は段を表している。
左側のグラフはシマノの7段及び8段の変速機そして右側のグラフはSturmey Archerの8段の変速機。シマノのグラフの青色の横線は7段変速の変速機そして黄色の横線は8段変速の変速機を表している。例えば、7段変速機(青色)において1速から2速へ切り替えると、走行速度は17.2%速くなる。グラフを見ると7段変速機も8段変速機もワイドレシオとなっている。また、レシオのばらつきが大きい。一方、Sturmey Archerもワイドレシオであるが、レシオのばらつきは小さい。
参考: スプロケット群のレシオ
クランク軸変速機
これはクランク軸端に付けた遊星歯車で変速を行う方式。ギア比は1.65(増速)。例えば、スプロケットが38Tの場合は38T x 1.65 = 63Tより、38Tおよび63Tのスプロケットが付いていることと同等となる。 変速はクランク軸部に設けたボタンを靴のかかとで押すことによって行う。右クランクのボタンを押すと高速になり、左クランクのボタンを押すと元に戻る。シフターおよびケーブルは不要。内装または外装の後輪変速機と組み合わせて使う。折りたたみ自転車などの小径車などに使われる。 チェーンラインは42、44または49mm。スプロケットのBCD(PCD)は110mmで歯数は34、36、38、40、42、44、46、48、50、52または53T。なお、その他に坂を登りやすいギア比0.4および速度を出すためのギア比2.5がある。
無段変速機
無段変速機は、クランク軸と後輪軸の回転比が連続的に(無段階に)変えられる変速機。自転車用として2007年に実用化されたものとしては、ハブギアの遊星歯車の代わりに玉(ボール)を使って無断変速する方式がある。米国のFallbrook Technologies社が NuVinci と名づけている方式の外観および構造を右図に示す。入力は入力円盤から回転ボールに伝わり、ボールから出力円盤に伝わる。ボール軸の傾きを変えると、入力円盤および出力円盤とボールの接触直径比が変わることにより変速される。ハンドルの握りシフターでボール軸の傾きを無段階に変えて無段変速する。最大変速比は約1:4となっている。自転車メーカーのEllsworth Handcrafted Bicycles社(ルーマニア)が後輪ハブに組み込んだものを写真に示す。Currie Technologies社(米国)も後輪ハブに組み込んだシティ車を作っている。金属ベルトとプーリの組合せなどにより無段に変速する方式は、実用化されていない。
総合ギア比 計算器
表1のギア比の内装変速機付き自転車の固定スプロケットのギア比と内装ギア比を総合した、自転車としての総合ギア比を計算します。
「内装段数」を選択後、クランクおよび後輪のスプロケット歯数を、半角数字で入れてください。総合ギア比が出ます。
- 計算例
- 内装変速機は3段、クランクスプロケットは39Tそして後輪スプロケットは15Tの場合、総合ギア比は1速が1.91、2速は2.6そして3速は3.54となる。走行速度は「走行速度計算器」で計算できる。その際、ギア比としては総合ギア比を入力する。
変速ロープ
概要
変速機レバーから変速機本体への力による信号の伝達に使う。摩擦を減らすためにテフロン被膜を付けたものもある。
ロープとは
ワイヤまたは繊維をより合わせたひもをロープという。ワイヤロープは鋼線(ワイヤ)をより合わせて作ったロープ。 ロープと言うと綱引きに使われるような太いロープを連想するが、事務機には極細ワイヤで作った太さ0.5mm以下の細いロープ(マイクロロープ)が使われている。ケーブルとも言うが、ケーブルとロープは異なる。鋼線を束ねているのは共通しているが、ロープは線を撚り合わせているのに対し、ケーブルは束ねただけで撚は無い。
特徴
ロープには、同じ外形の針金または鋼線(ワイヤ)よりしなやかで、かつ一度に切れないという利点があり、定期点検で破断を防止できる。
寸法
外径は1.2mmが一般的。ブレーキロープより細い。誤ってブレーキロープを使うと、円滑な変速ができないことがある。長さは2,000mmおよび2,100mmなど。ロープカッターで所定長さに切断して使う。
端部処理
一端には、シフターと連結するためのたいこ(ロープエンド)が付いている。他端には鋭いロープ端に対する安全のため及びほつれ防止のためのエンドキャップが付く。ほつれをより防止するには、ロープの端から少し手前をはんだで固めてから切断する。はんだでほつれ止めをしても、安全のためにキャップは必要。
材質
鋼線の材質はステンレス鋼が一般的。
ロープ伸び(たるみ)
ロープ伸びとはディレイラーまたはブレーキのロープがたるむこと。レバーでロープを引いた程度の力ではロープは伸びない。伸びではなくロープのたるみが生じることはある。たるみを伸びと感じる。たるみの原因は、(1)アウターの両端がそのアウター受けで座ること。(2)ロープ端のたいこなどが座ること。これらは、レバー操作をするごとに少しずつ生じることがある。
ロープ案内
ロープ案内は、ディレイラーのロープを、ボトムブラケットシェル(BBシェル)下において円弧状に案内する溝のあるU字断面の部品。固定ねじでシェル下に固定する。写真の合成樹脂製部品は左右2箇所の溝(前ディレイラー用および後ディレイラー用)がある。溝の途中にはロープを通す穴が開いている。溝に潤滑することが望ましい。
ロープスプリッター
BTC管継手を使った分割式フレーム及び折りたたみ自転車に使って、ブレーキロープ(ケーブル)及びディレイラーロープを分割できるようにしたロープの継手。
アウター
概要
変速機用のアウター(ケーシング)は、ディレイラー等の変速機本体を操作するロープを中に入れて、案内する外径5mm程の比較的容易に曲げられる特殊チューブ。アウターが曲げられても、その中心距離は変わらないように鋼線が埋め込まれ、変速操作の精度を確保している。
構造
ロープとの摩擦を軽減するためのテフロン樹脂等のチューブ(外径2.5mmほど)の外面に複数(18本程)の0.5mmばね鋼線を、ピッチ100mm程のゆるい螺旋状に巻き、その上を外装樹脂チューブで覆っている(シマノ製)。構造等はメーカーによって異なる。写真は外装チューブを部分的に剥がし、鋼線を出した状態。このような構造にすると、圧縮力による変形が少なく、かつ、アウターを曲げても中心線の長さが変わらない。この特性はディレイラーの正確な移動のために重要。
圧縮力
ニュートンの作用反作用の法則により、シフトレバーでロープを引いた張力とほぼ同じ大きさの圧縮力がアウターに働く。ブレーキ用のアウターほど圧縮力に強くないが、大きな圧縮力は働かない。変速機用はブレーキ用より圧縮強度が小さいので、ブレーキ用として使用してはならない。言い換えるとブレーキ用と変速機用は互換性はない。
キャップ
アウターの両端にはアウター受けとの芯だしをするために、エンドキャップ(上図)を付ける。
アウター受け
軽量化のために、フレーム部においてはアウターを使わずロープを露出させることが多い。その際、フレームにアウターの端部を固定するためにアウター受けが使われる。アウター端を受け入れる円筒状のへこみがあり、その中央にはロープを通す穴が開いている。フレームにろう付けまたは溶接等で固定する形(ブレーズオン)、ブレーズオンにボルトで固定する形およびフレームにバンドで固定する形がある。ハンドルは可動部なので、シフターをハンドルに付けるとハンドルとフレーム間にアウターを必要とする。
歴史
アウターとその中に入れたロープで力を伝達するという機構は英国のRaleigh Bicycle Company の創立者のFrank Bowden(1848-1921年)によって発明されたもので、エンジンの燃料スロットルの操作用などとしても使われている。発明者の名からボーデンケーブルと呼ばれることもある。
セラミックアウター
一端に球面のへこみそして他端に球面の出っ張りのある長さ約4mmの数多くのセラミック円筒(右図)をテフロンチューブに数珠のように通し、その外に熱収縮性のプラスチック(色は透明を含め各種ある)を被せて熱収縮させたアウター。アウターは圧縮変形しないことが求められるが、セラミックは圧縮変形しない。
内部ルーティング
美観のためにフレームの中に変速アウター(及びロープ)を通すこと。右図のアウターの入口及び出口位置は一例。フレームの外を通すのに比べて、アウターの質量が大きくなりかつロープ摩擦が大きくなる。アウター又はロープの交換などの整備もやりにくい。アウターを交換するには、ロープはフレームに残したままアウターだけを引き抜く。残したロープに新しいアウターを通す。ロープも交換する場合は、古いロープを抜き新しいロープを通す。
自動変速機
速度などを検知して、自動的に変速する変速機。内装変速機(遊星歯車)および外装変速機(スプロケット+チェーン)などの自動変速がある。手動変速の選択もできる。
例えば、シマノのサイバーネクサスは内装8段(写真)自動変速となっており、走行速度に合った最適ギアをコンピュータが自動選択する。変速のための速度計および動力が必要なので、前輪ハブは速度計およびハブ発電機の付いた形となっている。信号待ちなどで停止した場合は、発進に備えて一番軽いギアになり、軽いペダルで始動できる。最適なギアの選択の困難な婦人などに向いている。
写真の自転車はシマノの3段自動変速機を搭載したTrek社のシティ車。変速レバーが付いていない。コースターブレーキを使っているのでブレーキレバーも付いていない。
工具
切断工具
アウター(ハウジング)は、アウターカッター(一般にロープカッターと共用となっている)を使って切断する。ペンチのように手で握って切る。切断片が飛ぶこともあるので、安全めがねをかけるか、または透明な樹脂袋の中で切るのが望ましい。アウターを切った端面はやすりで平坦に仕上げる。穴の端部は先の尖ったやすりまたはきりなどで突起がないように仕上げる。突起などがあると、円滑な変速ができない。SISなどのアウターを切る場合は、不要のロープを通して同時に切断するときれいな端面となることがある。
ローププラー
ロープを固定ボルトで固定する時に、ロープを望みの張力で張った状態で保持する工具。ロープの取付が容易となる。ラチェット機構が付いているもの及び付けていないものがある。ラチェット機構はロープを引いた位置を固定するので、片手で操作できる。ロープストレッチャーともいう。