ハンドルステムはハンドルと前輪フォークの操縦管(ステアリングコラム)を連結する部品。ステムまたはハンドルコラムとも呼ばれる。
ステムの機能は、
(1) ハンドルをフォークの操縦管と連結すること。
(2) 突出し(ステム長)および上がりによって乗車姿勢を決めること。
ステムには、ねじ付きヘッドセット用およびねじ無しヘッドセット用がある。ねじ無しヘッドセット用は歴史が新しい。
クイルステムおよびノーマルステムとも呼ばれる。 クイルは鳥の羽毛の軸の部分のこと。
ステムを横から見ると7字形をしている。 先端のハンドルクランプ(締付け金具)にハンドルが付く。
下端は操縦管(ステアラーチューブ )に差し込んで連結する。
操縦管に差し込む最小長さ位置を示す刻印(はめ合わせ限界標識)を付けたものもある。
刻印のない場合は、差し込む最小長さは外径の2.5倍以上とするのが一つの基準。
要素に分解すると、操縦管に入れて固定するクイル、クイルを操縦管内壁に固定する臼(うす)、固定のために臼を引上げる引上げボルト、前へ突き出た突き出し(イクステンション)およびハンドルを固定するハンドルクランプの5要素となる。
ステムの下端には、(引上げ) うすと呼ばれる操縦管内壁への固定金具が付いている。うすの中心に切られたM8(稀にM6)の雌ねじには、ステム上部から差し込んだ長尺の引上げボルトがねじ込まれている。
六角レンチで引上げボルトを締めると、引上げられたうすの働きで操縦管内壁に固定される。この機能によってハンドルの高さ調節が出来る。うすにはくさび(ウェッジ)形およびコーン形がある。
-
くさび形
うすの上端が円筒を斜めに切ってできたくさび状になっていて、くさび状になったステムの下端と合わさっており、引上ボルトで引上げるとくさび作用で操縦管内壁に押し付けられて固定される。ウェッジ形とも呼ばれる。
- コーン形
コルク栓のようにテーパーの付いたうすをステム下端に差込み、それを引上ボルトで引上げると下端が広がるように縦溝を切ったステム(管)の外径が広がって固定される。ロードレーサーなどに使われる。イクスパンダー形とも呼ばれる。
クイルを操縦管に入れる長さにより、ハンドル高さを調節できる。さらに、ステム角を変えられるようにした形(右写真)もある。ただし、この形はハンドルに大きな力の加わるオフロードのマウンテンバイクなどには向かない。
突出し(ステム縦芯からハンドル芯までのステムにそった距離、リーチともいう)によって乗車姿勢が変わる。突出しは40~140mmで、同一車種について見るとフレームサイズとほぼ比例した長さとなる。
直立またはそれに近い姿勢を取るシティサイクルおよびBMXの突き出しは短く、ロード系自転車およびマウンテンバイクは比較的長く90~140mm。
表1 ステム外径
呼び寸法 [mm] |
ステム外径 [mm] |
25.4 (1") |
22.2 |
28.6 (1 1/8") |
25.4 |
31.8 (1 1/4") |
28.6 |
ステム外径を表1に示す。 ステムの呼び寸法は操縦管の外径で表されている。
ステムは操縦管の中に入るので、外径はステム呼び寸法より3.2mm(操縦管肉厚1.6mmの2倍)小さい。
ステム管の外径(ステム径)の標準は22.2mm(公差は+0、-0.15)。
表2 ハンドルクランプ径
クランプ径 [mm] |
記事 |
25.4 |
JIS、ISO |
26.0 |
イタリアン |
31.8 |
オーバーサイズ |
ハンドルを掴む部分の内径であるハンドルクランプ径を表2に示す。
JIS D9412(自転車用ハンドル)によれば、操縦管との最小はめ合い長さは、ステム最下端からステム径の2.5倍以上でなければならない。最小はめ合い長さの位置に、はめ合わせ限界標識を刻印する。
表3 ステム呼び寸法
ステム呼び
[inch] |
操縦管クランプ内径
[mm] |
用途例 |
1 |
25.4 |
ロード |
1-1/8 |
28.6 |
MTB |
1-1/4 |
31.8 |
タンデム |
1.5 |
38.1 |
ダウンヒルMTB |
操縦管クランプの内径は操縦管の外径に合わせて4種類ある(表3)。
ステム呼びは操縦管クランプの内径で表す。
ハンドルクランプ内径はハンドル中央部の外径に合わせる。
フォークの操縦管外径に付けるので、ステム呼び寸法は操縦管の呼び寸法と等しい。
市販ステムのメーカーサイトから統計を取ったステム長の分布を右図に示す。ステム長は50~150mmの間に分布しており、100mm前後のステムが多い。
市販のロードバイクのステム長は、フレームの立管長(C-T)の約20%の長さとなっている。
例えば、長さ100mmのステムは100mmステムと言うことがある。
ステムの操縦管軸と直角な面とステム突出しの中心線の作る角度。上がり角ともいう。市販品の上がり(ライズ)は0~45°。
直角面より上の角度はプラス(+)そして下の角度はマイナス(-)で表される。上下逆にすればプラスがマイナスになる。
操縦管クランプ径(右図)は表3のように、25.4mm(1")、28.6mm(1-1/8")、31.8mm(1-1/4")および38.1mm(1.5")の4種類がある。
操縦管クランプボルトは2本が一般的である。 軽量化のために1本(M6)にした形(締付トルク12Nm)もある。
表2に示すようにハンドルクランプ径は25.4mm、26.0mmおよび31.8mmがある。
ハンドルクランプボルトは4本が一般的であるが2本もある。ボルトサイズは、M5、M6、M8及びM10がある。取付けるとき、2本ボルトは交互に締める。
4本ボルトは、クランプが歪まないように、1→2→3→4と対角線の順序の繰返しで少しずつ均等に締める(右図)。
緩めるときも順序は同じ。
クランプとステム本体の間のすき間は、ハンドルの上および下において等しくする。
クランプ端に面取りの丸みがなく角があり(製品欠陥)、かつボルトを必要以上のトルクで締付けたために、走行中に肉厚の薄いハンドルに大きな力が働いたときにクランプ端での応力集中によりハンドルが折れた事例がある。
トルクスねじを締め付けると、ウエッジが操縦管(ステアラー)またはハンドルに押し付けられて固定する形がある。
ハンドルクランプはフェースプレートが分離していない。
本体材質はアルミ合金、炭素繊維強化樹脂(CFRP、俗に言うカーボン)、チタン合金及びマグネシウム合金など。
質量は100~200g。
ねじ付きヘッドセット用およびねじ無しヘッドセット用がある。
乗車姿勢を変えられるようにするために、操縦管に対する角度または長さを変えることにより、上がりを変えられるようにしたステム。
ハンドル高さ及びリーチが変わる。突出し(ステム長)は、メーカーによって90~140mm。
質量は固定式のステムに比べて少し大きい。
角度を変えることにより上がりを変えられるようにした形。可変角度はメーカーによって異なる。角度を変える関節は1関節および2関節がある。
1関節は上がりを変えるとリーチも変わるが、2関節は上がりおよびリーチを独立に変えられる。
望遠鏡式に長さを変えることにより上がりを変える。リーチも付随して変わる。
無段階にステム高さの調節ができる形。
(A型)当初の組立ては、縦方向の凸ガイドの付いた円筒シムをフォークの操縦管に差込む。
円筒シムと噛み合う縦方向の凹ガイドの付いたステムを円筒シムに差込む。トップキャップを付ける。
ステムの操縦管クランプボルトを緩め、円筒シムにステムを差込む。
ステムは円筒シムの上を上下にスライドする。好みの高さにしてクランプボルトを締める。
(B型)ステムではなくステム固定管が上下にスライドし、ボルトではなくクイックリリースレバーで固定する形。
ステム角度も変えられるようになっている。
水平面で回転できるステム。
ハンドルを90°水平回転させて、自転車の幅方向の必要保管スペースを小さくできる。
上下の角度は調節できる。
ハンドルを高くするために、突き出しを斜め上方に上げたステム。 ステム軸心と突き出しの角度は約50度。
メーカー及び型番によって異なるが、上がる高さは50~90mm。ただし、前方への突き出し長は短くなることもある。
ハンドルを高くするために、ステム位置を高くする補助部品。ステムレイザーとも言う。
ねじ付きヘッドセット用及びねじ無しヘッドセット用がある。ねじ無しヘッドセット用(写真)は操縦管(外径1-1/8)のステムを外し、
ステムレイザーを付け、その上部に外したステムを付けることによってステム位置従ってハンドルを高くする。
最大上げ高さは30mmおよび80mmなどがある。
ねじ付きヘッドセット用のステムに替えて取付け、ねじ無しヘッドセット用のステムが取付けられるようにする適応部品(アダプター)。
クイルアダプターとも呼ばれる。
25.4mmのクイルに替えて使い、呼び径28.6mmのステムを受け入れる。ステム長を自由に選ぶことができる。
ステムの呼び径はそれを付ける操縦管の外径で呼ばれる。従って、実際のステム外径は呼び径より3.2mm(操縦管肉厚1.6mmの2倍)小さい。
ステム呼び径は25.4mm(ステム外径は22.2mm)が一般的。
ステムの突き出し部にカプラーが付いていて、カプラーで分割できてハンドルを外すことができる。
旅行などで自転車をバッグなどに入れて運搬するときに、使うことを意図している。 ステム長110mmで質量250gとやや重い。
ハンドルシム寸法 [mm]
ハンドルクランプ径 |
ステムクランプ径 |
22.2 |
25.4 |
25.4 |
26.0 |
25.4 |
28.6 |
25.4 |
31.8 |
26.0 |
31.8 |
ハンドルクランプ部外径よりステムのクランプ内径が大きいとき、その隙間を埋めるための2つ割りの円環状の詰め物部品。
ハンドルと滑りにくくするために、内側の軸方向に鋸歯状の複数の突起を設けた形もある。
市販のシムの寸法を右表に示す。 同表のハンドルクランプ径はハンドルのクランプ部外形でシムの内径に対応する。
ステムクランプ径はステムのハンドルクランプ部の内径でシムの外径に対応する。シム長さは、44mmまたは48mmなど。
ねじ無しヘッドセットとハンドルステムの間の操縦管(ステアラー)に入れて、ステム高さ(従ってハンドル高さ)を設定する円筒状の部品(図3)。
高さを低くする場合は、スペーサーを外せば低くなる。その際、操縦管をスペーサー長だけ切断して短くする。
ただし、取外したスペーサーをステムの上にはめると切断する必要はない(図4)。円錐形のスペーサーもある。
内径は操縦管の外径に対応して、25.4mm(1")、28.6mm(1-1/8")および31.8mm(1-1/4")。
高さはメーカーによって異なり、3mm、4mm、5mm、6mm、8mm、10mm、12mm、25mmおよび30mm。
例えば、5mm、10mmおよび15mmの3種類を組み合わせると、5mmから30mmまで5mmおきの高さにできる。
高さを調節できるヘッドセットスペーサー。
(A) 階段状に不連続に高さを調節できる形:
一例は、10、11、12、13及び15mmに高さを変えられる。
(B) ねじによって無段階に連続的に高さを調節できる形:
調節範囲の例は、25~35mm、30~42mm及び35~50mm。
フレームにまたがり、ふくらはぎで前輪を挟みハンドルを回す。前輪とは独立にハンドルが回らないか調べる。
サスペンションフォークの上クラウンに4本(又は2本)のボルトで固定するステム。
クラウンへの連結体の形状はU形及びI形がある。
クランプ径は31.8mm。リーチは30~55mm。
ボルトはM5六角穴付きボルトが多い。
材質はアルミ合金など。CNC加工によって作り、陽極酸化によって着色したものが多い。
質量は120~160g。ボルトはX字の順(一例は図の1→2→3→4)に少しずつ締める。
ダウンヒルバイクなどに使われる。
突出し又はステム長は、ステム縦軸中心線と突出し中心線の交点から、ハンドル中心線までの突出し中心線に沿った距離。
市販のステムの上がり及びステム長を打点したグラフを右に示す。
ステム長は90~115mmとなっいるが、ステム長の最小は30mm(BMX車用)そして最大は150mmまである。
ステムの取付軸と直角な面とステム突出しの中心線の作る角度。上がりは0~35°
上がりは90°とステム角との差となる。上がり = (ステム角 - 90°)の絶対値。
ステムを上下逆(フリップフロップ)にすると、上がりはプラスマイナスが逆になる。
逆にしても、メーカーのロゴが逆にならないように、上下逆の二つのロゴを付けている形もある(右図)。
ステムを自転車に取付けたときの水平からの上がり。
頭管(ヘッドチューブ)中心線が水平となす角度。 ヘッド角はおよそ71°~79°。
ステム縦軸中心線と突出し中心線の交点から、ハンドル中心線までの水平距離(右図のL)。リーチは手を伸ばすという意味。
ステム縦軸中心線と突出し中心線のなす角度。ステム固有の角度。およそ75°~115°。
突出しの異なるステムと交換すると、有効ハンドル幅が変わって操縦性も変わる。
突出しを短くすると、有効ハンドル幅が小さくなりハンドルの少しの動きで大きな旋回となり操縦の安定性が悪くなる。それを補償するには、ハンドル幅を大きくする必要がある。
ステムの突出し及び上がりにより、乗車姿勢が影響を受ける。これらは、突出し、上がりおよびヘッド角の3要素で決まる。その計算器を示す。
ステムを上向きにつけた場合および下向き(上下反転)に付けた場合の実際上がり、水平リーチおよび垂直上がりが同時に計算できる。
ステムメーカーはヘッド角を関知していないので、仕様として出せるのはステムで完結している突出し(ステム長)及び上がり(角度)。
[ 計算例 ]
突出し100mm、上がり6°そしてヘッド角72°の場合
上向きに取付けた場合は : 実際上がり24°、水平リーチ91mmそして垂直上がり41mmとなる。
下向きに取付けた場合は : 実際上がり12°、水平リーチ98mmそして垂直上がり21mmとなる。
乗車する人に合ったステム長及び上がりを決めるための工具。
側面の2本のボルトを緩めてハンドルを前後及び上下に移動させて、位置を決める。
ステム長は、55~155mmそして上がりは、-20~40°の目盛りが付いている。
ステム長及び上がりが変われば、コクピット長が変って乗車姿勢が変る。
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