チェーンの折れ曲がり
チェーンの磨耗
チェーン伸び率の計算
チェーン伸び率 計算器
チェーンチェッカー
チェッカーの製作
歯飛び
チェーンの潤滑
チェーンは磨耗によって伸びる。チェーンが伸びるとスプロケットの歯と噛み合わなくなり、歯飛びを起こす。
チェーンの折れ曲がり
チェーンがスプロケットに入るときはチェーンがピンで折れ曲がり、スプロケットを出るときは元の直線に戻るため、スプロケットの入口および出口においてブッシュはピンに対して部分的な回転運動をする。スプロケットの入口と出口の間は、折れ曲がった状態で通過するのでブッシュの回転はない。
歯数が少ないほどチェーンの折れ曲がり角度(折れ角)は大きくなる。スプロケットの歯数とチェーンの折れ角の関係を次のグラフに示す。
横軸はスプロケットまたはディレイラーのプーリの歯数そして縦軸はチェーンの折れ角。例えば、歯数20Tのスプロケットにおけるチェーン折れ角は9°である。折れ角が大きいと、チェーンの内リンクと外リンクの間等の摩擦損失も大きくなる。折れ曲がりによりピンは磨耗し、チェーン伸びの原因となる。ペダルに大きな力を加える登坂時および加速時には、チェーンに大きな力がかかる。
チェーンの磨耗
チェーン伸び
チェーンのピンおよびブッシュのピン穴が磨耗すると、ぴんとピン穴の隙間が大きくなり、チェーンを引っ張ると、見かけ上その隙間の合計だけチェーンが伸びる。ピンの硬度を上げたチェーンは磨耗しにくい。磨耗は外リンクに隠れて見えない。チェーンそのものは、全く伸びない。チェーン伸びは、正しくピッチ伸びと呼ばれることがある。
ピン磨耗
ピンの磨耗は、ピンの全周に渡って均一に生じるのではなく、ブッシュによってピンが引っ張られる面にチェーンの折れ曲がりによって生じる。上図に、磨耗したピン断面を模式図にして示す。分かりやすいように、磨耗深さは異常に大きく描いてある。磨耗深さがチェーン伸びに影響する。
ピン表面硬化
ピンの磨耗を低減するために、表面硬化処理をしたピンがある。ピン内部は元の弾性の大きい状態のままとして、高い応力に耐え、かつ耐疲労性を保つ。チェーンが1%弱伸びるとチェーンの寿命となるから、チェーンピッチの1%以上すなわち約0.13mm以上だけ表面硬化すればよい。上図はピン断面の顕微鏡写真。
磨耗寿命
伸び率が1%を超えると、見かけ上伸びたローラーピッチ(間隔)に対応するよう、スプロケットの歯の磨耗が激しくなるので寿命と見なされる。寿命が来ても使用できるが、高価なスプロケットの歯の磨耗が加速するるので、伸び率が0.5%以上となったチェーンは新品と交換することが望ましい。
チェーンの汚れ
チェーン外面の黒い汚れは、ピンとブッシュの磨耗粉が潤滑油と共に流出し付着したもの。外面の汚れは磨耗に影響しないが、ピンとブッシュ間の汚れは磨耗に影響する。注油の前には、リンクの端面は清掃して、汚れが潤滑油と共に流入しないようにすることが望ましい。
距離と寿命
雨、負荷(坂道、悪路、向かい風などは負荷を大きくする)などの使用環境およびピン材質の違い、清掃、注油などの保全状況の違いがあるため、チェーンの交換時期を走行距離によって決めることはできない。ただし、走行距離は折れ曲がり回数にかかわるので、寿命に大きく影響する。寿命に影響する要因をまとめると、ピンおよびブッシュ等の材質、潤滑油種、潤滑方法、チェーンに働く力、折れ曲がり回数および折れ角など。一般には、平坦舗装路における走行距離2,500~3,500kmで寿命になることが多い。
噛み合い限界
スプロケットの歯とチェーンが噛み合わなくなる限界のチェーン伸び率は、スプロケット歯数53Tに対しては伸び率約2.3%そして30Tに対しては伸び率約3.8%。つまり、歯数の多いスプロケットに対しては、少ない伸び率で噛み合わなくなる。ただし、これは理論上のことで、1%磨耗すると交換するのが望ましい。
チェーン伸び率の計算
チェーン伸び率は、チェーンの規格長さに対するチェーン伸びの割合。式にすると、
チェーン伸び率 [%] = 100 x チェーン伸び/チェーンの規格長さ
ここに、
チェーン伸び = 計測時のチェーン長さ - チェーンの規格長さ。
伸び率が1%を超えるとチェーンの寿命。一例として、24リンクの長さを計ると307.2mmであった場合について計算すると、チェーン24リンクの規格長さは、チェーンピッチ12.7mmより、12.7mm x 24リンク = 304.8mm。チェーン伸び = 307.2mm - 304.8mm = 2.4mm。従って、チェーン伸び率 = 100 x 2.4mm/304.8mm = 0.79% 。
チェーン伸び率 計算器
測定
チェーン伸び率の計算の準備として、チェーンのピン間距離を一般のスケールで測定する。測定に当たっては、ペダルを操作してチェーンを真直ぐに伸ばし、20リンク(外リンクと内リンクの合計)以上の複数リンクのピン間距離を測る。子供などにペダルでチェーンを張ってもらって測るとよい。リンク数が多いほど、精度が上がる。定規または巻尺の最小目盛りは1mmであるが、目測で0.2mmまで読み取る。ピンの芯間距離を測るが、ピンの左端から左端までの距離を測ったほうが測りやすい(芯間距離と同一距離)。
偶数リンク
ピン間距離が伸びるのは内リンクの左右のピン間距離であり、外リンクの左右のピン間距離は(固定されているので)伸びない。そのため、この内リンクと外リンクの1組(複数)を最小単位として見た方が正確となる。奇数とすると、内リンクの伸びたピン間距離または外リンクの伸びていないピン間距離が追加されることとなる。
リンク数は入力しないので、必ずしもリンク数を数える必要はなく、同じ状態のピン間距離を計れば偶数のリンクとなる。例えば、外リンクの前ピンから、およそ20リンク以上先の外リンクの前ピンまで計れば、偶数リンクとなる。
計算器
正確に測定すれば、次の計算器によって、チェーンチェッカーより正確に伸び率を求めることができる。計算に必要なリンク数は、入力した測定ピン間距離より算出しているので入力する必要はない。新品のチェーンもピンとブッシュの間に遊びがあるので、新品のチェーンに関しても計算すると伸び(遊び)が計算される。市販のチェーンチェッカーは計測値で0.2~0.5%ポイントの誤差がある。例えば、伸び率が1%と表示された時、実際の伸び率は0.5~0.8%であることがある。
測定したピン間距離を半角数字で入れて、[計算]を押して下さい。測定したピン間(全体の標本)のチェーン伸び率が出ます。
- 計算例
- 測定したピン間距離が420.6mmの場合、チェーン伸び率は0.36%である。
チェーンチェッカー
チェーンチェッカーは、チェーンのピンなどの磨耗によるチェーンの伸び率を測定する器具。チェーン磨耗指示器又はチェーンゲージともいう。伸び率によりチェーンの交換時期を知る。伸び率が1%を超えるとチェーン交換が望ましい。
次の(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)などの方式がある。何れもチェーンのローラの内側間の距離を測定するので、ローラ表面の磨耗およびローラとブッシュ間の磨耗が誤差として入る。何れも少しは磨耗するが伸びには影響しない。測定においてはペダルを押し、上側(張り側)のチェーンにチェーンチェッカーを当てる。
(A) 連続目盛
チェッカーの先端下およびレバーの下にピンが付いており、このピンをチェーンのローラー間(10リンク)に入れる。レバーを回転が止まる位置まで回すと、伸び率表示窓に伸び率が現れる。レバーを回すとピン間距離が大きくなり、それに応じた伸び率が表示される。
(B)2点目盛
チェーンの10リンクのローラー間に入れたとき、片側は0.75%の伸びに対応する長さとなっており、 他方は1.0%の伸びに対応する長さとなっているゲージ。別のメーカーは、チェーンの8リンクのローラー間に入れたとき、片側は0.6%の伸びに対応する長さとなっており、他方は0.8%の伸びに対応する長さとなっている。
(C)3点目盛
a社のチェッカー(右側の図)は、チェッカーを離れたローラー間に入れると、右のテーパー状の物差しがどこまで入るかによって伸び率が目盛で表示される。左のローラー当たりから物差し右端までの距離は、伸び率に応じて連続的に変えてある。伸び率の目盛は、0.50%、0.75%及び1.0%となっている。b社のチェッカー(左側の図)は、伸び率の目盛が50%、75%および100%となっているが、これは0.5%、0.75%および1.0%の誤りであると思われる。あるいは、伸びに対する定義が異なるのかも知れない。これら3点の目盛の中間位置は目測となる。b社のチッカーは、物差しが長いので精度は良い。
(D)目盛なし
チェッカーを離れたローラー間に入れたときのチェッカー中央とチェーンのすき間は、新品のときは大きいが磨耗が進むと小さくなっていき、寿命になるとすき間は零となる。2つ折のチェッカーを真直ぐに伸ばしたときのチェッカーの左右のローラー当て間の距離は、チェーンが磨耗寿命となったときのローラー間距離としている。
(E)デジタル表示
ノギスのバーを太くして端に測定用のジョーを付けた形状になっている。左右のジョーでチェーンのローラー間をばね荷重で挟むと、磨耗値が液晶画面にディジタル表示される。2.5mmの伸びまで測定できる。最小目盛は0.01mm。1.55Vの電池が必要。
チェッカーの製作
30cm定規にチェッカー用の目盛を付けると、簡易なチェーンチェッカーとなる(上図)。30cm定規に入るリンク数は22リンクなので、22リンク x ピッチ12.7mm = 279.4mmの位置に目盛を付けると、チェーンが伸びていないときの22リンクのピン芯間距離となる。
22リンクが1%伸びたときの距離は、279.4mm x 1.01 = 282.2mmとなるので、282.2mmの位置に目盛を付けると、チェーンが1%伸びたときの22リンクのピン芯間距離となる。この定規をチェーンに当てることにより、チェーンの伸びを推測できる。
歯飛び
チェーンのローラーがスプロケットの歯と正しくかみ合わず、ローラが歯の上を滑って越える現象は歯飛びという。上り坂などでチェーンに大きな力がかかったときなどに起こりやすい。歯飛びによって、クランクのスプロケットからチェーンへの動力伝達またはチェーンから後輪スプロケットへの動力手伝達が出来なくなる。歯飛びの原因は、
(1) チェーンのピンなどの磨耗によるチェーンの伸び(ピッチ伸び)。
(2) スプロケットの歯の磨耗。
(3) リンクが1箇所で硬くなっている。
チェーンの潤滑
どのような潤滑油を使うかによって、チェーンの寿命は変わる。
粘度
ISO粘度グレードで表して、VG100~VG150程度の粘性があるものが良い。粘度が低いと浸透性がよくピンとブッシュの隙間まで入りやすいが、その反面次の問題点がある。
- チェーンに加わる力によって、油膜が切れて金属接触を起こす可能性があり、その場合は磨耗を早める。
- スプロケットにおける回転による遠心力で潤滑油が飛散する。
参考: ISO粘度グレード
油種
- ウエット
- 主に、ベース油でできた潤滑剤。粘性があるとチェーンのピンまで隙間を通って浸透しにくいので、鉱油系よりはるかに浸透性の良いエステル系の潤滑油が望ましい。
- ドライ
- 揮発性の溶剤を加えて粘度を下げて浸透性を良くした潤滑油。溶剤が揮発して、ペースト状になる。テフロン(PTFE)などを含む。メーカーが勝手に名づけたもので、一般のドライ潤滑剤とは異なる。
- ワックス
- ワックスを揮発性の溶剤に分散させて液状にした潤滑剤。テフロンおよび有機モリブデン(極圧剤)を含むものもある。液状のためブッシュにも侵入し、数分で溶剤が揮発して低摩擦係数のワックスの膜を作る。外面は粉塵が付着しにくい。欠点は長持ちしないこと。およそ200km走行毎に注油する必要がある。
清掃
注油にあたっては、チェーンの黒い汚れを潤滑油がチェーンの中へ持ち込まないよう、事前に汚れをよくふき取るかまたは洗浄することが望ましい。チェーンのピンとブッシュの間に入った汚れはピン磨耗の最大の原因となっている。
注油箇所
チェーンのピン上の外プレートと内プレートの間に注油すると、ピンとブッシュ内面間に注油できる(上図)。この点注油は慣れると難しいことではない。このピンへの注油は磨耗の防止、従ってチェーンの伸び防止に関係するので重要。ローラ側面と内プレートの間に注油すると、ブッシュ外面とローラ内面間に注油できるが、ピンへの注油に比べれば重要性は低い。ローラーの中央に注油することは、無意味な注油である。注油後には付着した潤滑油は拭取ることが望ましい。
伝動効率
潤滑により、チェーンの伝動効率は良くなり、その分軽く走ることができる。