概要
キャリパーブレーキ
二重ピボットブレーキ
カンティブレーキ
Vブレーキ
エアロブレーキ
流体リムブレーキ
ミニVブレーキ
ブレーキシュー
ブレーキパッド
トウイン
ディスクブレーキ
ディスクブレーキ座
ローター
バンドブレーキ
ドラムブレーキ
コースターブレーキ
ローラーブレーキ
Uブレーキ
デルタブレーキ
ブレーキロープ
ローラーカムブレーキ
アウター
BMXローター
ブレーキレバー
レバー位置及び調整
ブレーキブースター
工具
ブレーキ鳴きの止め方
制動力
前後輪ブレーキ効き
フェード
左右のレバーと効き車輪
タイヤのロック
タイヤのスリップ
制動距離
ブレーキ アーム比
アーム比計算器
シュー外内回転半径比
ピッチオーバー
概要
ブレーキは自転車の速度を落とすか又は停止するための部品。手で操作できるようハンドルに付けたブレーキレバーを指で引き、その力をロープ(ケーブル)又は流体ホースでブレーキキャリパーまで伝達して、ブレーキを遠隔操作する。ただし、ペダルで操作するブレーキもある。ブレーキは制動する位置によって、リムブレーキおよびハブブレーキに分類することができる。
- リムブレーキ
- ブレーキシューのパッドでリムを両側から締め付けて、その摩擦力で制動するブレーキ。リムは放熱面積が大きい。最も一般的なブレーキで、使用数量も多い。
- » キャリパーブレーキ
- » カンティブレーキ
- » Vブレーキ
- ハブブレーキ
- ハブに付けたブレーキによって制動するブレーキ。ハブにつけるブレーキで制動力をスポークによってリムそしてタイヤに伝えるので、スポーク等の十分な強度が必要。
- » ディスクブレーキ
- » バンドブレーキ
- » ドラムブレーキ
- » ローラーブレーキ
- » コースターブレーキ
(1軸)キャリパーブレーキ
概要
ブレーキシューの付いたキャリパー状の腕を、フレーム芯の1ヶ所の支点(ボルトなど)で、支持する方式のリムブレーキ。1876年に発明され、特許が取られた。
キャリパー(複数形はキャリパス)という測定工具の形状から名づけられている。キャリパーは挟むという意味。
側引き(サイドプル)ブレーキとも呼ばれる。
特徴
アーム比は1程度と小さいので、シューとリム間の平行移動性がよい。アーム比が小さいのでカンティブレーキやVブレーキに比べてブレーキの利きは良くないが、効きがなめらかなので高速を出さないシティサイクルに向いている。ただ、勾配の大きい下り坂での制動には難がある。
構造
左右のキャリパーは中央の一カ所の支点で支持している。カンティブレーキとVブレーキがレバーをそれぞれの支点で支持しているのと対照的。下端の挟む部分にブレーキシューが付き、他端にロープが付いている。
用途
主にシティ車の前輪ブレーキとして使われている。ロード車の前輪および後輪に使われる形式は、リーチが短く、かつクイックリリースが付いている。
アーチサイズ
キャリパーブレーキにおいて、フレームに固定するピボット芯からシュー芯(左右のシューの芯を結ぶ直線)までの垂直距離を表すシマノ用語。アーチサイズが短いと、アーム比が大きくなりブレーキの効きと応答性は良くなるが、泥よけを付ける空間は無くなる。シューのボルトを付けるキャリパーのボルト穴は長穴になっており、リムに対する半径位置が10~15mm調節できる。調節によってアーチサイズは変わるが、公称のアーチサイズは最大長さを言っている。リーチとも言う。
デュアルピボット キャリパーブレーキ
概要
1軸キャリパーブレーキよりも、ブレーキの中心調整(リムに対するパッドの芯だし)が簡単、正確にでき、かつ使用中に変化しないよう、他方のアーム(キャリパー)は軸(ピボット)を二重(デュアル)にしたキャリパーブレーキ。構造がやや複雑で高価。前輪用および後輪用がある。主に、ロードバイクのブレーキとして使われる。
歴史
1軸キャリパーブレーキは、摩擦係数の変化などにより芯が狂うという欠点があり、それを解決するために開発された。ドイツのAltenburgerが1960年代に特許を取った。特許が切れた後、1990年代にシマノおよびカンパニョーロなどが商品化した。
特徴
1軸キャリパーブレーキ(シティサイクルの前輪に使われている)よりもアーム比は大きく取られているので、ブレーキの利きは良い。アームの移動距離を短くしているので、応答性も良い。 クイックリリースによって、パッドすき間を大きくすることができるので、車輪を外すことができる。
構造
中央引きブレーキと側引きブレーキを合わせた構造となっている。中央引きにはできず、おのずと側引き(サイドプル)となる。
一方のアームAの主軸(主ピボット)はフレーム(タイヤ)芯にあるのに対し、他方のアームBの副軸(オフセットピボット)は主軸(主ピボット)から出た短いアームCに偏心して付いている。 従って、アームは全部で3個ある。
パッドの動き
その構造上、ブレーキパッドの動く軌跡は、細かくは左右のパッドで異なる。
一方のパッドAはリムを押し下げるように動き、他方のパッドBはリムを押し上げるように動く。軸を中心にしたパッドの動きの軌跡を見れば分かるように、パッドが磨耗してくると、パッドAはスポーク側へ動き、パッドBはタイヤ側へ動く。
それを予知して、パッドAはやや上方(タイヤ側)に取付け、パッドBはやや下方(スポーク側)に取付けるのも一つの手である。
リーチ
リーチは上下に調整できる範囲の最下端の値(最大距離)である。シュー(パッド)は取付ボルト穴が長穴になっいおり、この位置から上へメーカーによって10mmまたは14mm(右図のa寸法)調整できる。リーチはメーカーによって、49、50および57mmの3種類あるが、49mmが多いことが分かる。
取付位置
前輪用はフォークのクラウンの中央そして後輪用はシートステイのブリッジの中央に取付ける。何れも固定点はリムの上側となる。
材質
キャリパー(アーム)の材質は、アルミ合金、炭素繊維強化樹脂(CFRP、俗にいうカーボン)またはチタン合金など。主軸の材質は、クロモリ鋼(クロムモリブデン鋼)など。カーボン製のキャリパーにおいて、ケーブル取付ボルト周辺にひびが入るとしてリコールしたメーカー(Hive社)がある。
質量
質量は寸法および材質などによって異なり、125~190gである(右のグラフ)。平均は156gである。
パッドすき間の調節
パッドすき間の設定は、ロープ調整バレル(右上図)を回して行う。中心合せ(芯出し)は、中心合せ調整ねじを六角レンチで回して行う。パッドすき間は1.5~2mmに調整する必要があり、車輪回転時のリムの左右の振れは±0.2mm以下であることが望ましい。
カンティブレーキ
概要
リムを締め付けて制動する片持ちのリムブレーキの一種。カンチブレーキとも言う。カンチまたはカンティ(正確にはキャンティ)は片持ちの意味。Vプレーキより歴史は古い。Vブレーキ(横引き)もカンティレバーなので、それと区別するために中央引き(センタープル)カンティブレーキと呼ばれることもある。
取付位置
フレームに固定する取付ボルトは左右のキャリパーそれぞれにあり、取付位置はリムの下側となる。フレームには取付けのためのブレーキポスト(スタッド)が必要。
特徴
アーム比(3前後)はVブレーキより小さいが、その分シューとリムとのすき間が 大きくとれ、泥詰まりが問題となるオフロードに向いているが、MTBには利きの良いVブレーキが使われる。 Vブレーキと比べると質量は小さく、パッドすき間は大きくすることが可能。STIレバーを使うことができる。
形式
キャリパー外端間の幅が相対的に狭いロープロファイルが一般的となっているが幅の広いワイドプロファイルもある。ロープロファイルはワイドプロファイルよりアーム比は大きいがパッドすき間は小さく、オフロードで泥の詰まりを起こしやすい。
構造
ブレーキシューの付いた左右のキャリパーは、その下部にそれぞれ独立の支点(取付ボルト)を持つ。前輪ブレーキの支点は左右のフォーク、そして後輪ブレーキの支点は左右のシートステイに付ける。ブレーキシューはキャリパーの中央部に付いており、キャリパーの端に付いているキャリパーブレーキとは対照的。キャリパー内部の取付ボルト外部には、ねじりコイルばねが入っており、パッドがリムから離れる方向のばね力が働いている。
左右のキャリパーの上端を山形ロープで結び、その中央(山頂)を、ブレーキレバーからのロープで上に引くとパッドは、ばねに抗してリムに押し付けられる。
山形ロープ
山形ロープには、ちどりとロープ(ケーブル)を組み合わせた伝統的な形およびシマノが出したリンクワイヤがある。
- ちどりとロープ
左右のキャリパーを山形ロープとなる1本のロープで結び、その中央にちどり(吊り金具、右図)を付ける。ちどりのアンカーボルトにブレーキレバーにつながっている主ロープを固定する。ちどりは、幅が狭いものおよび幅が広いものがある。山形ロープの長さを変えることにより山の角度を変えることができる。
- リンクワイヤ
ちどりは使わず、ブレーキレバーから来た主ロープは、ちどりに代わるボタンを通して一方のキャリパー(ブレーキアーム)に行く。ボタンからは他方のキャリパーに行くロープが出ている。 このロープに所定長のコイルがかぶせてあり、このコイル長によりロープ長が決まるようになっている。なお、リンクワイヤーはシマノ用語。調節範囲は限られており、片側のロープ長は63、73、82、93及び106mmのものがある。
用途
サイクロクロスバイクに使われている。クロスバイクおよび旅行車の中にはカンチブレーキを使っているものがある。
調整
左右のパッド間の距離は、リム幅に応じて20~35mmに調整できる。パッドとリムの間のすき間は、ばね調整ねじで調整する。ロープロファイル形のパッドすき間は1mmが標準。
車輪外し
車輪を外す時は、左右のキャリパーを手で締付けるとキャリパーの溝に入っているロープを外すことができて、パッド間の間隔を広くすることができる。
Vブレーキ
概要
マウンテンバイク用に開発されたブレーキであるが、他の車種にも使われている。
左右のアーム(キャリパー)のそれぞれの下端に支点があり、ブレーキシューはアームの中間部に付いていること及びロープは上端に付いていることは、カンティブレーキと共通。
ロープを水平方向(アームと垂直方向)に引くようになっている点はカンティブレーキと異なる。
Vブレーキのアーム比は約4。Vブレーキはシマノの商品名で、一般名はリニアプルブレーキ。
取付位置
フレームに固定する取付ボルトは左右のキャリパーそれぞれにあり、取付位置はリムの下側となる。フレームには取付けのためのブレーキポスト(スタッド)が必要。
種類
Vブレーキのシューの動きを見ると、円弧移動式と平行移動式の2種類がある。円弧移動式は他のリムブレーキと同じように、シューが円弧を描いて動くもの。
平行移動式
平行移動式は平行四辺形の原理で、シューがリムに対して平行に移動するもので、高級バイクに使われている。
Vブレーキのようにてアーム比が大きくなると、シュー外内回転半径比(後記)が小さくなり、シューとリム間の平行移動性が悪くなる。それを避けるために工夫されたのが平行移動式のVブレーキ。ただ、リンクが増加して振動しやすくなるのでブレーキ泣きを起こしやすくなる。
ロープ向きの変更
ブレーキアームにおいてロープはアームを水平方向に引くため、その向きをおよそ90度変える必要がある。そのためヌードル(インナーリード)と呼ばれる部品が付いている。
作動原理
右上図の向きで見ると、ロープは右キャリパーに固定されている。アウターに接続したヌードルは、クイックリリースによって左キャリパーに接続している。ブレーキレバーでロープを引くと、ブレーキにおいてはロープが右キャリパーを引き、その反作用によりヌードルがクイックリリースを押し、クイックリリースが左キャリパーを引く。
クイックリリース
車輪を外すときは、クイックリリース(ヌードルホルダー)からヌードル(インナーリード)を外すとパッド間隔が広がる。ヌードルを外すには、ブートの端をクイックリリースから少し離す。片手で左右のキャリパーを締め付け、他方の手でヌードルを上に外す。右図はクイックリリースからヌードルを外した状態。
すき間調整
パッドとリムの間のすき間は、ばね調整ねじで調整する。すき間は1mmが標準。
パッド
ブレーキパッドはロード車用のブレーキパッドより長いので、リムの半径に合わせて曲がっている。
アダプター
デュアルピボット キャリパーブレーキなどに比べててアーム比が大きいため、これらのブレーキのブレーキレバーと互換性がない。そのためロード用自転車のSISレバーは使えない。
この欠点を補うためのアダプターとして、第3メーカーがトラベルエージェント(上図)を作っている。トラベルエージェントは、2個の直径の異なる同芯のプーリを組み合わせて、ロープの引き距離(トラベル)を変える(倍にする)構造となっている。
パワーモジュレータ
Vブレーキは効きが良い反面、ロックを起こす可能性がある。ロックを起こりにくくする装置にパワーモジュレータがある。
右図のグラフにシマノのパワーモジュレータについて、ブレーキレバーのストロークとブレーキ力の関係を示す。黒色の曲線はパワーモジュレータ無しの場合そして灰色の曲線はパワーモジュレータを付けた場合を示す。作動範囲においてはブレーキ力が低下するようになっている。ストロークの始めおよび終わりにおいては、パワーモジュレータは作動しない。
エアロブレーキ
空気抵抗が小さくなるような形状にしたブレーキ。主に、トライアスロンバイク及びタイムトライアルバイク用として作られている。中央引きのキャリパーブレーキが多い。
CdAは0.2125など。質量は124gなど。
流体リムブレーキ
ブレーキレバーを引くとレバー部に内蔵されたピストンが押され流体圧が上昇する。上昇した流体圧は流体ホースでつながったブレーキのピストンがキヤリパーを押し、キヤリパーに付いている一対のパッドをリムに押しつけて制動する。流体としては作動油などが使われる。主にマウンテンバイクに使われる。高価。
ミニVブレーキ
ロード車用にキャリパー(ブレーキアーム)を短くしたVブレーキ。 Vブレーキのキャリパーを短くしてケーブルの引き距離を少なくし、ドロップハンドルのブレーキレバーが使えるようにした、第3メーカー(テクトロ社)がVブレーキに似せて作ったブレーキ。アーム比が小さいため、Vブレーキのブレーキ力は無い。泥よけを付ける空間がないのが欠点。シマノの商標(Vブレーキ)に抵触しないよう、"ミニV"形ブレーキまたは"ミニV"ブレーキなどと名付けている。アーム長さ(芯-芯)は旧新の形式によって異なり50~90mmそして支点シュー間距離25±5mm。アーム比は旧新の形式によって異なり約2~3。形番によって外観および材質等は異なる。
ブレーキシュー
概要
ブレーキシューは摩擦材のブレーキパッド(ゴムまたはブロックとも言う)が付いている金具。
和名で船とも言う。シューとパッドを合わせて、ブレーキシューと言うこともある。
スタッド
背中に付いている支柱(スタッド)で、キヤリパーなどに固定する。固定方式に応じて、スタッドはねじ付き及びねじなしがある。
カートリッジ
パッドが交換できるものとできないものがある。パッド交換ができるシューは、カートリッジシューと呼ばれることがある。パッドが磨耗すれば、新しいパッドと交換する。右用と左用がある。 パッドをシューの長手方向から差込み、止めねじ(ロード車用キャリパーブレーキ)または止めピン(マウンテンバイク用Vブレーキ)で固定する。
傾き角
ブレーキ鳴き防止のトウインのためにブレーキシューのキャリパーに対する傾き角を調節できるようにした形もある。
偏心スタッド
スタッドをシューに対して偏心して付けた形がある。ブレーキをかけたときに、パッド全体がリムと均一に接触するようにする意図がある。ブレーキをかけたとき、パッドはリムによって前方に引かれるので、スタッドがリムの中央に付いていると前方より後方が強くリムに接触する。シュー横に取り付ける向きを記したものもある。
ブレーキパッド
概要
ブレーキにおいて、リムまたは円盤(ディスク、ローター)などに押し付けて制動するためのゴムまたは炭素などでできた摩擦材。その組成および形状などがノウハウとなる。リムブレーキ用およびディスクブレーキ用がある。リムまたは円盤との摩擦によって摩擦熱が発生する。
リムブレーキ用
シューと一体になったもの及びシューから外して交換できるものがある。ブレーキブロックとも言う。ロード車用とマウンテンバイク用ではパッドの長さなどが異なる。マウンテンバイク用(Vブレーキ)は長い。
パッドの発熱は金属との表面摩擦によるだけでなく内部摩擦によっても生じるので、金属側の発熱量よりも大きい。
内部摩擦はSchallamach波(1971年に同名の人が発表)と呼ばれるスティック-スリップの振動によって生じる。このパッド表面の波は目に見えないが、模式図として下に示す(1~6)。図のパッドの下面がパッドの表面。
パッドで発生した摩擦熱は、リムに熱伝導されてリムから空気中へ放熱される。パッドおよびシューが空気と接触する面積は、リムの表面積と比べて大変小さいので、パッドおよびシューからの放熱は相対的に大変小さい。
ディスクブレーキ用
ディスクブレーキ用のパッドはディスクパッドと呼ばれることがある。
材質による種類
リムブレーキ用のパッドは、リム材質によってパッドの材質が異なる。アルミ合金リム用、セラミックリム用およびカーボンリム用などがある。
デュアルコンパウンド
特性の異なる2種類の材質ので構成したパッドは、デュアルコンパウンドパッドという。リムブレーキ用及びディスクブレーキ用がある。
- リムブレーキ用
- リムブレーキのパッドにおいて、2種類の材質のパッドを組み合わせたデュアルコンパウンドパッド。図の例では、硬いパッド(白色)は乾燥状態で利き、そして柔らかいパッド(灰色)は雨で濡れた状態で利く。
- ディスクブレーキ用
- ディスクブレーキのパッドにおいて、2種類の材質のパッドを組み合わせたデュアルコンパウンドパッド。図の例では、パッド両端は金属系(焼結金属など)の本来のパッドとし、中央部は熱伝導率の小さい樹脂系材料としてピストンからブレーキ作動油への熱伝導を減らしている。
トリプルコンパウンド
特性の異なる3種類(トリプル)の材質で構成したパッドは、トリプルコンパウンドパッドという。次にその2例を示す。
- 3種の摩擦係数
- 摩擦係数の異なる3種類のパッドが装着できるようになっており、その位置の組合せによって目的および好みに応じたブレーキの利きが得られるようになっている。
- 3種の機能
- 乾燥状態で利くパッド、雨で濡れた状態で利くパッドおよびブレーキ鳴きをしないパッドの3種類のパッドで構成している。
なお、3種類以上の構成は、マルチコンパウンドとも呼ばれる。
パッドすき間
パッドすき間は、ブレーキパッドと相手のリムまたはディスク(円盤、ローター)との距離(すき間)。左右で等しいことが望ましい。
リムブレーキのパッドとリムのすき間は1~2mmそしてディスクブレーキのパッドと円盤(ローター)のすき間は0.5mm前後。
マウンテンバイクに使われるVブレーキはキャリパーのてこ比(アーム比)が大きいのでパッドすき間は1mmの小さいすき間が必要。
ロード車に使われるデュアルピボットブレーキはのパッドすき間は1.5~2mmそしてキャリパーブレーキのパッドすき間は約2mm。
リムブレーキのパッドに関し、パッドの磨耗によってすき間が約3mm以上になると、操作性が少し低下するので ケーブルアジャスター ですき間を調整する。
トウイン
トウインはブレーキパッドのつま先(トウ)が最初にリムと接触(イン)するようにすること。左右のブレーキパッドの接触面がリムと平行でなく、上から見るとハの字形となるようリムに対して傾けること。 キャリパーにブレーキシューを取付ける角度を変えられる形式のシューは、トウインを設定することができる。
トウインはブレーキ鳴き対策として使われる。ブレーキの利き具合とはさほど関係はない。
具体的には、パッド先端が接触したとき、後端はリムから約1mm離れているようにする。言い換えると、ブレーキ開放時には、パッド先端とリムの距離は、パッド後端とリムの距離より約1mm短くする。目視で設定することは難しいので、1mm厚にしたマッチ棒などを基準器としてパッド後端とリムの間に挟んで設定する。
トウインを設定する工具(ブレーキシューチューナー、後記)がある(上図2つめ)。トウインの角度目盛の付いたブレーキシューもある(上図3つめ)。
ディスクブレーキ
概要
ハブに付けた円板(ディスクまたはブレーキローター)を一対のパッドで締付けて制動するブレーキ。泥によるリムの汚れの影響を受けないので、オフロードを走るマウンテンバイクのブレーキとして主に使われる。リムブレーキと比較した利点および欠点は次項の通り。
利点
- 制動トルクが大きい。パッドとローターのすき間を小さくできるので、ブレーキレバーのアーム比を大きくして制動力を大きくできる。
- ディスクブレーキは地面からかなり離れているので、車輪が跳ね上げる泥の影響を受けにくい。
- リムブレーキのようにリム幅よる大きさの制限が無いので、より大きなパッドを使用することが出来て 雨水および雪による制動力の低下が少ない(雨の中を走る通勤自転車に向いている)。
- ローターが大きいと放熱性が良い。
- リムの形状、寸法がどのような車輪でも使える。そして、ブレーキ掛けによるリムの磨耗がない。
欠点
- 質量が150~350g大きい。
- 前輪ブレーキの制動により、フォークに大きな力が働くので、強度を上げるために質量が大きくなる。
- 後輪ブレーキの制動により、リムブレーキよりも大きなブレーキ力を受けるシートステイ及びチェーンステイの強度を上げるために質量が大きくなる。
- 制動トルクはスポークによってタイヤに伝えるので、スポークの負担は大きく強度の大きい車輪が必要。
- ハブにローター取付フランジが必要。
- 価格が高い。特に油圧式は高価で、作動油を必要とする。点検・整備が必ずしも容易でない。
機械式
機械式は力の伝達をロープで行う(右上図)。ブレーキレバーを引くと、ディスクブレーキのキャリパーにつながったロープが引かれ、キャリパーに付いている一対のパッドがディスクに押しつけられて制動する。
流体式
- 概要
- 流体式(油圧式)は、ブレーキレバーを引くとレバー部に内蔵されたマスターシリンダーのピストンが押され油圧が上昇する。上昇した油圧は油圧ホースでつながったキャリパーのキャリパーシリンダーのピストンがパッドをローターに押しつけて制動する。流体式は、容易に機械利得を大きくすることができる。5年間の流体漏れなし、を保証しているメーカーがある。
- リザーバー
- 長時間のブレーキ掛けによるパッドの温度上昇で膨張した流体はリザーバーのダイアフラム(ブラダー)の変形で吸収する。
- ピストン
- 1つのピストンでローターを締める片ピストン式および左右の2つのピストンでローターを締める両ピストン式がある。両ピストン式は高価。ブレーキピストン(マスターピストン)とキャリパーピストン(スレーブピストン)は直径が対応している。材質としてセラミックを使っているものもある。 キャリパーメーカーと異なるメーカーのレバーを使うときは、注意が必要。
パッド
ローターに押し当てて制動する当て物。パッドは金属の基盤に接着などで密着されている。パッドは摩擦係数が大きく、耐熱性及び耐摩耗性があること、かつローターの磨耗が少ない材質であること。 パッド材質は樹脂系、金属系(焼結金属)およびセラミック系などがある。樹脂系は摩擦力は大きく、ブレーキ鳴きがないがパッド磨耗は早い。金属系は湿摩擦係数が相対的に大きい。
ブレーキ座
前輪ディスクブレーキを付けるにはフォークに、そして後輪ディスクブレーキを付けるにはチェーンスティに、それぞれディスクブレーキ座(キャリパー座)が必要。
キャリパーアダプター
ISマウント(マウントは台または座のこと、取付け穴の芯間距離51mm)のキャリパー座に取付け穴芯間距離74mmのキャリパーを取付けできるようにするアダプター。ローター径などによって形状が異なる。
ローター取付方式
ローターを取り付けるには、ローターを固定できるディスクハブを必要とする。取付方法にはセンターロック(上図左)およびボルト取付(IS)(上図右)がある。センターロック(シマノ特許)はハブから出ているスプラインにスプライン穴のある円板を入れてロックリングで固定する。ボルト取付は6個のボルトで円板をハブに固定する。 ボルト穴のPCDは44mmとなっている。
コンバーター
流体ディスクブレーキコンバーター及び油圧ディスクブレーキコンバーターとも言う。ケーブル式のブレーキレバーで流体ディスクブレーキを作動させるためのコンバーター(変換装置)。
コンバーターには左右のブレーキレバーから出たアウター及びケーブルが繋がっている。コンバーターからは前輪ディスクブレーキ及び後輪ディスクブレーキへ行く流体ホースが出ている。
レバーでケーブルを引くとコンバーターの流体ピストンが引かれ流体圧が発生する。その流体圧を流体ホースでブレーキの流体キャリパーへ導く。
取付は、コンバーターのブラケットをヘッドセットスペーサーで挟んで固定している。
作動流体
流体ディスクブレーキには作動流体が使われる。流体が油の場合は作動油とも言う。ブレーキ作動流体(ブレーキフルード、英語はブレーキフルーイッド)ともいう。
ブレーキ作動流体はブレーキ掛けによってパッドからの伝熱で温度が上がるので、指定の沸点及び粘度のものを使う。自転車用の作動流体は、シマノを含め鉱油系が多いが自動車用の非鉱油系の流体を使っているメーカーもある。自動車用は腐食性及び毒性がある。メーカーによって組成及び粘度が異なるのでメーカー指定のものを使う。鉱油系のブレーキに非鉱油系の流体を使ったり混ぜたりしてはならない。シールの材質が異なるので侵されることがある。
作動流体(作動油)はリザーバーのふたを外して注入する。
ディスクブレーキ座
概要
ディスクブレーキのキャリパーを取付ける座。ディスクブレーキは付いていなくとも、フォーク及びシートスティに座を取付けてある自転車はある。
前輪用
座の取付け位置は左フォークの車軸を付けるつめ(爪、ドロップアウト)の近く。座がフォークの後に付いているため、走行中にブレーキを掛けると速度が速いほどローターには車輪をつめから下へ外す方向の大きな力が仂くから、クイックリリースが付いている場合は緩んでいないことが重要。 走行中のブレーキ掛けによって前輪が外れた事例がある。もし座がフォークの前に付いていればブレーキ掛けにより車輪をつめに押し込む力が仂く。
なお、リムブレーキは、ブレーキ掛けによって車輪を外す方向の力は働かない。本来、クイックリリースはリムブレーキに対して作られたもの。
後輪用
取付方式には前輪用、後輪用共に、ISマウントおよびポストマウントがある。いずれも2本のボルトでキャリパーを固定する。座は車軸と直角でなければならない。
ISマウント
座は板状で、取付ボルトの芯間距離は51mm。後輪用(上図右)はISマウントが多い。
ポストマウント
座は柱状で、取付ボルトの芯間距離は74mm。後輪用はアダプター不要。ナットの取付ができないので、M5またはM6のねじが切られている。
ローター
概要
ハブに取り付け共に回転する、ディスクブレーキの円盤。ブレーキディスク(円盤)とも言う。ローターをキャリパーのブレーキパッドで締付けて制動する。 次の意図でローターに複数の穴をあけている。(1)穴の淵でパッドの表面を清掃する(2)軽くする(3)穴の換気作用で放熱をよくする。
大きさ
ローターの大きさは外径で表し、140、160、180および203mmなど。140mmは後輪用。前輪は180mmそして後輪は160mmとしているメーカーもある。
クロスカントリー(XC)バイクには160mmローターそして丘下り(DH)バイクには203mmローターが使われることが多い。
大きいほど制動トルクが大きくかつ放熱性も良い。ただし、やや重くなる。厚さは2mmが多い。
取付方式
ローターの取付方式としては、センターロック及びボルト取付(IS)がある。
- センターロック
- シマノの特許の方式で、ハブ(センターロックハブ)より出たローター取付用のスプライン軸にスプライン穴のあるローターを入れてロックリングで固定するので作業は早い。
- ボルト取付(IS)
- 6本のM5のボルト(トルクスねじ)で固定する。ボルト穴のPCDは44mmとなっている。ボルト取付手順としては、ボルト締めによってローターが歪まないように少しずつ右図の順序(1→3→5→2→4→6)で均等に締める。緩めるときも同じ順序で均等に緩める。
アダプター
6穴ボルトのローターがシマノのセンターロック台座(センターロックハブ)に使えるように変換する部品として、センターロックアダプターがある。
センターロック座に対応するスプラインおよびローターの6穴が入るピンの付いたピンリングA並びにハブの内ねじに対応する外ねじの付いたロックリングBでローターを挟む。ロックリングBには工具用のスプラインが付いているので、ロックリング工具で回して固定する。6本の固定ボルトをねじ込む必要がないので、取り付けは容易となる。写真はシマノ製。
材質
材質は高炭素鋼、ステンレス鋼、チタン合金及びアルミ合金など。硬度が大きいほど磨耗は少ない。アルミ合金製は軽いが磨耗は早い。放熱性向上及び軽量化のために、ステンレス鋼をアルミ合金に積層した3層ローター(アイステック)もある。
質量
各社のローターの質量を打点したグラフを図に示す。外径180mmのローターの質量は、約150gである。
精度
JIS D9414(自転車-ブレーキ)には、「ディスクの外縁部内側5mmの位置における横ぶれは0.8mm以下」と規定しているが、0.2mm以下であることが望ましい。ローターの左右の平行度は0.02mm以下であることが望ましい。
平行度を出すためにはローターの左右の面を同時に加工する。
平行度が悪いと、ブレーキ掛けにおいて脈動による振動及び騒音が生じることがある。
ウエーブローター
ブレーキローターの一種で最初はトライアルバイク用に作られた。円周外面が波(ウエーブ)打つたような形状をしており、真偽はともかくメーカーによれば次のような特徴がある。
(1)ブレーキパッドの放熱が良い。
(2)パッドの磨耗が均一。
(3)熱膨張によるローターの反りが無いため、パッドとの接触面積が減少しない。
(4)泥などの付着物に対する清掃性がある。
(5)パッドは次々と新しい波を掴むので、継続的に最大摩擦力が得られる。
バンドブレーキ
ハブに付けたドラムの外周をバンドと呼ばれる帯で締め付けて制動するブレーキ。カバーで覆われているので雨および泥の影響を受けにくい。
シティ車、折りたたみ自転車および小径車には後輪にバンドブレーキを使っているものもある。
バンドは円弧状の金属製の帯で、摩擦材が貼り付けてある。バンドの一端はピンによってケースに固定されており、他端はピンによってレバーとつながっている。レバーを引くと、レバーのアーム比によって大きくなった力でバンドは回転ドラムを締め付ける。
回転ドラムはハブに固定されているので、ハブ従って車輪の回転を止める。
ドラムブレーキ
ドラムブレーキはそのドラムをハブに取付け、一対の円弧状ブレーキシューをドラムの内面に押し付けて(内拡)制動するブレーキ。内拡ブレーキとも呼ばれる。ドラム径は70~120mm。
カバーで覆われているので雨および泥の影響を受けにくい。サーボ効果によって制動力が大きい半面、ブレーキのロックを起こす可能性がある。また、少しの摩擦係数の変化によって制動力が大きく変わるという不安定さもある。
自動車のドラムブレーキと同じ原理。ドラムはシュー及び作動機構のカバーとしても働いている。シューの一端はピンの回りに回転する。他端には一対のシュー間に拡幅用のカムが付いている。
ブレーキ操作によってケーブル(ロープ)によりカムレバー(ブレーキアーム)が引かれ、カムが回転して一対のシュー間を広げることによりシューをドラム内面に押し付ける。ブレーキをかけた反力でブレーキが回らないように、アンカーアーム(固定腕)をチェーンステイに固定する。
内部で摩擦熱が発生するので、環状の放熱フィンが付いたものもある。
コースターブレーキ
後輪ハブの中に、ブレーキとフリーホイールの役目をするコースター(滑るという意味)を組み込んだブレーキ。ペダル(クランク)を逆回転させるとブレーキが作動する構造となっているのが大きな特徴。ブレーキレバーおよびブレーキロープは必要でなく、手でブレーキを操作する必要がないという利点がある。握力の小さい子供用の自転車にも向いている。ハブの中に組み込まれているので雨および泥の影響を受けない。後ハブのみ。コースターブレーキハブともいう。内装変速機も組み込んだハブが一般的。コースターブレーキから出ているブレーキアーム(アンカーアーム)はその端をチェーンステイに固定する。シュー式およびディスク式がある。
前進するようにペダルを漕ぐと、スプロケットの回転によってドライバーをクラッチに入れる。クラッチはハブシェルを回転させて前進する。ペダルの回転を止めると、クラッチはハブシェルから離れる。ペダルを逆回転させると、クラッチはブレーキシューに入る。シューは左側のコーンを回転させ、シェル内の摩擦が増大してフレームに固定したブレーキアームは、左側のコーンの回転を止める。耐熱グリースが封入されている。1890年代に発明された。
ローラーブレーキ
ブレーキレバーを引くと、車輪軸に付けたブレーキの中のカムが、カムの周りに配置した6個のローラーを押し上げ、それが金属製のブレーキシューを金属製のドラム(外径70mm程度)の内側に押しつけて制動するブレーキ。ハブに取付ける。ドラムに内蔵されているので雨および泥の影響を受けない。熱がこもるので環状の放熱フィンが付いた形(右写真)もある。グリースを入れてブレーキ鳴きを防止し、かつ防水性を向上させている。ブレーキ鳴きをすることもある。外観はバンドブレーキと似ているが、やや小さいので一見して分かる。シティ車などに使われている。
Uブレーキ
中央引き(センタープル)の片持ち(カンティ)ブレーキの一種。形状が逆U字に見える。なお、Vブレーキは横引き(サイドプル)となっている。主に、BMXバイクに使われる。
左右のブレーキアームはそれぞれのボスに固定する。アーム取付ボルトは、カンティブレーキではリムの下にあるのに対し、Uブレーキではリムの上になっている。パッドが磨耗すると、パッドはタイヤの方へ動く。前輪のブレーキはフォークのボスに固定する。後輪のブレーキはシートステイの上または下のボスに固定する。チェーンステイのボスに取付けたものもある(写真)。チェーンステイはシートステイよりも、ブレーキに対する剛性が高い。
パッドが磨耗すると、機構上パッドはタイヤの方向へ移動する。パッドがタイヤに当る前に正常位置に調整するか又はパッドを新品と交換する。
デルタブレーキ
カンパニョロ社が1986年に出したの中央引きブレーキ。前面及び背面はそれぞれ三角形のカバーで覆われている。
写真左は外観、写真中央は前面内部そして写真右は背面内部。
リンクロープ(アーチロープ)の代わりに、二等辺の平行四辺形(ダイヤ形)リンク機構を使っている(写真中央)。平行四辺形リンクの上のピンを固定し、下のピンをロープ(ケーブル)で引上げると左右のピンは両側に動き左右のブレーキレバーの上部を左右に押す。ブレーキレバーは三角形部の下部左右のピンで固定されているため、下端のブレーキパッドはリムへ向かって動く。平行四辺形の下部のピンは左右2個のねじりコイルばねで下に押されており(写真右)、パッドをリムから離す働きをする。
ローラーカムブレーキ
ブレーキアームを動かす手段として、左右対称の板カム及びローラを使っている中央引き(センタープル)のリムブレーキ。ブレーキロープでカムを引上げると、アームの上端に付いたローラを押してアームを動かす。カムの形状によってブレーキパッドの動きを決める。例えば、最初は早く、リムに近づくにつれて遅くするなど。マウンテンバイクなどに使われた。サンツアーが作っていた。
ブレーキロープ
概要
ロープは鋼索とも言う。ブレーキロープ(ブレーキケーブル)は、ブレーキレバーからブレーキへの力の伝達に使う。
ロープとは
ワイヤまたは繊維をより合わせたひもをロープという。ワイヤロープは鋼線(ワイヤ)をより合わせて作ったロープ。
ロープと言うと綱引きに使われるような太いロープを連想するが、事務機には極細ワイヤで作った太さ0.5mm以下の細いロープ(マイクロロープ)が使われている。ケーブルとも言うが、ケーブルとロープは異なる。線を束ねているのは共通しているが、ロープは線を撚り合わせているのに対し、ケーブルは束ねただけで撚は無い。
特徴
ロープには、同じ外径の針金または鋼線(ワイヤ)よりしなやかで、かつ一度に切れないという利点があり、定期点検で破断を防止できる。
寸法
外径はロード車用は1.5mmそしてマウンテンバイク用は1.6mmでシフター用ロープより太い。長さは前輪ブレーキ用が約900mmそして後輪ブレーキ用が約1,500mm~1,650mm。ロープカッターで所定長さに切断して使う。
端部処理
一端には、シフターと連結するためのたいこ(ロープエンド)(写真左)が付いている。他端には鋭いロープ端に対する安全のため及びほつれ防止のためのエンドキャップ(写真右)が付く。ほつれをより防止するには、ロープの端から少し手前をはんだで固めてから切断する。はんだでほつれ止めをしても、安全のためにキャップは必要。
材質
鋼線の材質は、ステンレス鋼など。摩擦を減らすためにテフロン被膜を付けたものもある。
固定ボルト
ロープをブレーキに固定するボルト。ボルト軸に垂直に開いた穴にロープを通し、座金とナットで固定する。ケーブル固定ボルトまたはアンカーボルトとも言う。
ケーブルコネクター
ブレーキ及びディレイラーのロープ(ケーブル)を結合及び分割をする部品。ケーブルスプリッターとも言う。ブレーキ用とディレイラー用では穴の径が異なる。輪行のときなどにフレームを前後に分割するときなどに使われる。
ロープ伸び(たるみ)
ロープ伸びとはディレイラーまたはブレーキのロープがたるむこと。レバーでロープを引いた程度の力ではロープは伸びない。伸びではなくロープのたるみが生じることはある。たるみを伸びと感じる。たるみの原因は、(1)アウターの両端がそのアウター受けで座ること。(2)ロープ端のたいこなどが座ること。これらは、レバー操作をするごとに少しずつ生じることがある。
点検
主な点検事項は、ブレーキレバーおよびブレーキキャリパーとの連結部のロープのほつれ並びに磨耗。磨耗はアウターの曲がり半径の小さい場所で生じる。
アウター
概要
ブレーキ用のアウター(ケーシング)は、ブレーキを操作するロープを中に入れて、案内する外径5mm程の比較的容易に曲げられる特殊チューブ。鋼帯を密着巻きにすることにより、ブレーキ操作による圧縮力に耐えると同時に自由に曲げることができる。
構造
外径2.5mmほどのテフロン樹脂等のチューブの外面に長方形断面の鋼帯をらせん状に巻き、その上に樹脂製の外装チューブをかぶせてある(シマノ製)。
構造等はメーカーによって異なる。写真は外装チューブを部分的に剥がし、鋼線を出した状態。このような構造にすると、圧縮力には強いが、曲げる曲率半径に応じて長さがいくらか変わるが、ブレーキ用として問題はない。
キャップ
アウターの両端にはエンドキャップを付ける。
アウター受け
軽量化のために、フレーム部においてはアウターを使わずロープを露出させることが多い。その際、フレームにアウターの端部を固定するためにアウター受けが使われる。アウター端を受け入れる円筒状のへこみがあり、その中央にはロープを通す穴が開いている。フレームにろう付けまたは溶接等で固定する形、ブレーズオンにボルトで固定する形およびフレームにバンドで固定する形がある。 ブレーキレバーを付けるハンドルは可動部なので、ハンドルとフレーム間にアウターを必要とする。
アウターハンガー
アウターハンガーは、カンティ(カンチ)ブレーキのアウターを固定するために使われる。前輪ブレーキ用および後輪ブレーキ用がある。
前輪ブレーキ用はヘッドセットスペーサーを1個外して、その後に付ける形などがある。 後輪ブレーキ用にはシートクランプのボルトに固定する形などがある。
圧縮力
ニュートンの作用反作用の法則により、ブレーキレバーでロープを引いた張力とほぼ同じ大きさの圧縮力がアウターに働く。その圧縮力に耐えるようになっている。変速機用はブレーキ用と構造が異なっており、圧縮強度が小さいので、ブレーキ用として使用してはならない。言い換えるとブレーキ用と変速機用は互換性はない。
歴史
アウターとその中に入れたロープで力を伝達するという機構は英国のRaleigh Bicycle Company の創立者のFrank Bowden(1848-1921年)によって発明されたもので、エンジンの燃料スロットルの操作用などとしても使われている。発明者の名からボーデンケーブルと呼ばれることもある。
セラミックアウター
一端に球面のへこみそして他端に球面の出っ張りのある長さ約4mmの数多くのセラミック円筒をテフロンチューブに数珠のように通し、その外に熱収縮性のプラスチック(色は透明を含め各種ある)を被せて熱収縮させたアウター。アウターは圧縮変形しないことが求められるが、セラミックは圧縮変形しない。
BMXローター
ハンドルを360度回転させてもブレーキロープが捩れないようにする装置。メーカー(Odyssey、1986に特許取得)はジャイロと名づけている。
ハンドルを連続して回すことのあるフリーライドのBMXバイク(フラットランドバイク)に使われる。ハンドルステム部に取付け、ローターの上円板にブレーキレバーからの上ねじれ防止ロープをつなぎ、下円板にブレーキへ行く下ねじれ防止ロープをつなぐ。
ローターには玉軸受が付いており、ハンドルの回転によって回転するのでロープは捩れない。ロープはジャイロへの取付け上、二股に分かれた専用ロープを使う。
ブレーキレバー
概要
ハンドルに付いている、ブレーキを指で遠隔作動するためのレバー。レバーとブレーキはワイヤーロープ又は作動油チューブでつながっている。大きく分けると、平ハンドル用およびドロップハンドル用に分かれる。特殊なレバーとして、ドロップハンドル用レバーと共用するインラインレバーがある。
平ハンドル用
シフトレバーと一体になった形もある。右用および左用がある。指をかける部分の長さによって、2指レバー、3指レバーおよび4指レバーがある。右図は2指レバーおよび4指レバー。2指レバーの残りの指はハンドルを握る。常時ハンドルを握っておきたいマウンテンバイクのレバーとして使われる。
ドロップハンドル用
右用および左用は共通。ただし、シフトレバーと一体になった形(STIおよびエルゴパワー)は右用および左用がある。
STI(シマノ トータル インテグレーション)
ブレーキレバーとシフトレバーを上下に重ね合わせて一体にしたシマノの方式。
ドロップハンドルに使用し操作性が良い。右手で後ろブレーキと後ろディレイラーを操作し、左手で前ブレーキと前ディレイラーを操作する。左右とも、ブレーキレバーを中央側へ動かすと、チェーンが大スプロケットへと移動する。
シフトレバーを中央側へ動かすと、チェーンが小スプロケットへと移動する。シフトロープの引きは、ラチェット機構で行っている。
エルゴパワー
ドロップハンドル用のブレーキレバーとシフトレバーを一体にしたカンパニョーロ方式の商品名。シマノのSTIに対応する。STIの成功を追って開発された。
ブレーキレバーの背後の副レバーを、薬指と小指で内側へ押すと、チェーンは大スプロケットへ移動する。本体内側の指レバーを、親指で押すとチェーンは小スプロケットへ移動する。アップシフトとダウンシフトでは別の指を使うので誤操作が無い。STIには指レバーはない。
レバーの材質は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)。樹脂にメッキすると金属のように見える。
STIとエルゴパワーの外観上の違いは以下の通り。
- STI
- レバー:ブレーキレバーはシフトレバーと共通
- アウター:ブレーキ用はバーテープ下となるがシフター用は外に出る。
- エルゴパワー
- レバー:ブレーキレバーはブレーキ専用
- アウター:ブレーキ用およびシフター用共にバーテープの下となる。
エルゴパワーはハンドル前にアウターが出ていないので、ハンドルバッグの取付ができる。ブレーキレバーの背面にあるシフトレバーは、STIではチェーンを小スプロケットへ移すのに対し、エルゴパワーでは大スプロケットへ移すという違いがある。
ショートリーチレバー
リーチが標準より10~20mm短い(ブレーキ)レバー。この場合のリーチはレバーとハンドルの距離。
小さい手の人(女性、少年および手の小さい男性)およびレバーがハンドル(握り)に近いことを好む人に使われる。一般に身長が小さい人は手も小さい。平ハンドル用およびドロップハンドル用がある。フードにシムを入れて角度を変えることによって短いリーチに変換できる形もある。
一例は、リーチは、4°シムにより10mm短くなり、8°シムにより20mm短くなる。
流体ブレーキレバー
ブレーキレバーを引くとレバー部に内蔵されたピストンが押され流体圧が上昇する。上昇した流体圧は流体ホースでつながったブレーキのピストンがキヤリパーを押し、キヤリパーに付いている一対のパッドをハブに付いているローターに押しつけて制動する。 流体としては作動油などが使われる。マウンテンバイクなどに使われる流体式のディスクブレーキに使う。
エアロバー用
タイムトライアル車およびトライアスロン車に使うエアロバー(ベースバー)用のブレーキレバーで、ベースバーの先端に差込む。エアロブレーキレバーと呼ばれる。空気抵抗が少なくなるように配慮している。材質は軽量化のために炭素繊維強化樹脂(CFRP)が多いがアルミ合金もある。ブレーキロープはベースバーの中を通す。
インラインレバー
ドロップハンドルの水平部に取付け、ハンドルの水平部を握った姿勢で操作できるようにしたブレーキレバー。
ドロップハンドルのブレーキレバーに使っているアウターをインライン(一列)に使う。組付け時、ロープを通す前に、アウターのみレバー位置で切断してエンドキャップを両側に取付けてレバー本体の前後に差し込む。インラインレバーを引くと、それに付いているアウターを押し、相対的にブレーキロープを引くこととなる。
サイクロクロスレバーまたはクロスレバーと呼ばれることもある。
サーボウェーブ
ブレーキレバーを引く距離に対して、ブレーキパッドの動く距離を変化させるブレーキレバーのカム機構のシマノの名称。当初は機械式レバーであったが現在は油圧式レバーもある。ブレーキパッドがリム(リムブレーキ)またはローター(ディスクブレーキ)に当たるまでは素早く移動して効き始めを早くし、リムまたはローターに当たってからはゆっくり動いてブレーキを制御しやすくする。 パッドすき間を大きくしても従来のブレーキと同じ性能が得られる。初期の形は1992年にマウンテンバイク用に市販された。
ギドネットレバー
旅行車又はサイクリング車などのドロップハンドルに付ける。ブルホーンハンドルにも使われる。 レバーを上から見るとL形をしており、手がドロップハンドルの前に出た部分(リーチ)にあるときはレバーのA部を引き、手がハンドルの左右の水平部にあるときはレバーのB部を引く。フランスの今は無きMAFAC社が1940年代に世に出した。
ブレーキフード
ドロップハンドル用のブレーキレバー支持部にかぶせるゴム製等のカバー 。カバーの下に振動吸収のためのジェルをいれたものもある。
ブレーキレバー位置および調整
位置調整
フラット形およびアップ形などのハンドルの握りの円周方向に於けるブレーキレバーの位置(角度)は、水平より前方下方45°の位置が標準(初期設定)であるが、自分が操作しやすい位置(角度)にするのが望ましい。
ブレーキレバーに指をかけた状態で、手の甲と腕がほぼ一直線となる角度にすると、手首に無理な力がかからない。または腕中心線がハンドルの中心線とほぼ一致するように握ると、自然な握りとなる(右図)。この位置にブレーキレバーがくるように調節する。角度を変えるには、レバーのクランプ部にあって、レバーをハンドルに固定している六角穴付き固定ボルトを六角レンチで緩め、位置決め後に締める。
リーチ調整
レバーのリーチ(行程)はリーチ調整ねじによって、レバーの動きの始点(レバーとハンドル握りの間隔)を自分の手の大きさに合わせる。手の大きさに比べてリーチが大きすぎると、ブレーキ掛けが少し遅れかつ十分な力が加えられない。特に女性は手が小さいので調整することが望ましい。
2mmの六角レンチでリーチ調整ねじ(リーチアジャスター)を回して調節する。カムを回して調節する形式もあった。リーチを大きく変更したときは、ブレーキロープ長の調整も必要。
ブレーキパッドがリムに接触したとき、レバーは全開位置とハンドル握りの中間にあるのが一つの標準。リーチを短くしすぎると、パッドの磨耗などによりレバーが握りに当たり、ブレーキが利かなくなる。ショートリーチレバーもある。
ロープ張り調整
ロープアジャスターでロープの張り(たるみ)を調整する。アジャスターは外ねじの付いた中空(ロープが通る)の小さなつまみ状の部品。アウター(ケーブルハウジング)の端部と連結する。アジャスターを左に回すと、張力が大きくなると同時にロープが回したねじだけ短くなりブレーキパッドとリムの間隔が短くなる。 バレルアジャスター、アジャスティングバレルおよびケーブルアジャストボルト(シマノ語)とも呼ばれる。調整が終わればロックリングを右に回してロープアジャスターを固定する。
ブレーキブースター
ブレーキ座補強部品。ブレーキに加えた力が、前輪ブレーキ座のあるフォークまたは後輪ブレーキ座のあるシートスティの変形(開き)に使われるのを防止し、ブレーキングに有効に使われるようにするための補強用部品。左右のブレーキ座を真直ぐに連結するのが望ましいが、車輪と当たるため馬蹄形をしている。その両端にはブレーキ座に固定するためのボルト穴が開いている。ボルト穴はブレーキ座の間隔と合わせられるよう長穴となっている。ブースターおよびスペーサーの厚みだけ長い六角穴付きボルト(M6)が付属している。取付にあたっては、ブレーキ固定ボルトを外し付属の長ボルトでブレーキ及びブースターを同時に付ける。材質はアルミ合金、マグネシウム合金、鋼または炭素繊維強化樹脂(CFRP)など。ブースター本体の質量は45~80g。その効果はフォークまたはシートスティの剛性によって変わる。ブレーキ反力に対する剛性の小さいものほど、補強効果がある。逆に、元々高剛性に出来ているものにはさほど効果が現れない。
工具
切断工具
アウター(ハウジング)は、アウターカッター(一般にロープカッターと共用となっている)を使って切断する。ペンチのように手で握って切る。切断片が飛ぶこともあるので、安全めがねをかけるか、または透明な樹脂袋の中で切るのが望ましい。アウターを切った端面はやすりで平坦に仕上げる。穴の端部は先の尖ったやすりまたはきりなどで突起がないように仕上げる。突起などがあると、円滑なブレーキ掛けができない。
SISなどのアウターを切る場合は、不要のロープを通して同時に切断するときれいな端面となることがある。
ローププラー
ロープを固定ボルトで固定する時に、ロープを望みの張力で張った状態で保持する工具。ロープの取付が容易となる。
ラチェット機構が付いているもの及び付けていないものがある。ラチェット機構はロープを引いた位置を固定するので、片手で操作できる。ロープストレッチャーともいう。
ブレーキシューチューナー
トウインを設定するための樹脂製の工具。
チューナーでスポーク側からリムを挟んで蝶ナットを回すとリムに固定される。リムを挟んだ部分のチューナーの断面形状は、トウインの隙間形状となっている。車輪を回してチューナーをパッドの下まで持っていきシューを設定する。最大36本のスポークのスポーク間すき間までリムを挟むことができる。挟むことのできる最大リム幅は40mm。
ブレーキ鳴きの止め方
音は振動によって発生し、ブレーキ鳴きはパッドのスティック-スリップ摩擦などによるパッドなどの可聴の振動によって生じる。スティック-スリップにおけるスリップの割合が大きいとブレーキの効率は低下する。低周波だとスリップの割合が比較的大きい。リムブレーキのブレーキ鳴きを止める決定的な方法はないが、次のような手段はある。原因と合致すれば、ブレーキ鳴きは止まる。
- リムの清掃
- 台所洗剤、石鹸または洗濯洗剤を水に溶かしてウエス(ぼろきれ)を濡らし、リムを清掃する。汚れのある場合は家庭用の磨き粉でリムを清掃する。
- パッドの異物除去
- パッドに異物が入り込んでいないか調べ、取り除く。
- パッドの輝き除去
- パッドが輝いている場合は、ヤスリで輝きを除去する。
- パッドを平坦にする
- パッドが片減りしておれば、ナイフまたはやすりなどを使って平坦にする。
- 新品と交換
- パッドが磨耗して、残りがあまり無ければ、新品と交換する。
- ボルトの増し締め
- シュー固定ボルトおよびブレーキ関連ボルトが緩んでいないか点検する。緩んでいるとその振動で鳴くことがある。
- トウイン
ブレーキをかけると、パッドの先端が先にリムと接触し、順次後方が接触し最後に後端が接触するように、左右のパッドを上から見るとハの字形となるようパッドをリムに対して傾けると、振動が無くなり鳴かなくなることが多い。具体的には、パッド先端が接触したとき、後端はリムから約1mm離れているようにする。言い換えると、ブレーキ開放時には、パッド先端とリムの距離は、パッド後端とリムの距離より約1mm短くする。目視で設定することは難しいので、1mm厚にしたマッチ棒などを基準器としてパッド後端とリムの間に挟んで設定する。又はブレーキシューチューナーを使う。このようなトウイン機能によってブレーキの利きはほとんど変わらない。シティサイクルのブレーキには、このような調整機構は付いていないので、パッドがトウインの形状となるようヤスリで削る。一般にパッドは磨耗によって自然にトウインの形状となる。
- フレームの剛性を上げる
- Vブレーキに対してフレームの剛性が十分でない場合は、ブレーキブースターを付けてブレーキ力に対する剛性を上げ振動をおさえる。ただし、すでに剛性のあるフレームに対しては効果はない。一般には、後輪ブレーキが付いているフレームより前輪ブレーキが付いているヘッドセットを含めたフォークの剛性が小さいため、前輪ブレーキがブレーキ鳴きを起こしやすい。
- パッド材質の変更
- パッドを別のメーカーのものと交換する。
制動力
- 摩擦力
- ブレーキシューのパッドをリムに押しつける力と、パッドとリムまたは円盤(ローター)の摩擦係数を掛けた値が摩擦力(制動力)となる。従って、制動力は摩擦係数によって大きく変わる。
- 摩擦係数
- 面間に働く摩擦力Fとその面に垂直に働いている力Rの比を摩擦係数 µ (ミュー)という。式にすると、µ = F/R 。摩擦係数 µ の値は0より大きく、1より小さい(0<µ<1)。面間としてはブレーキパッドとリム間またはパッドとローター間となる。垂直に働いている力としては、パッドがリムまたはローターを押している力となる。静止状態で働いている静摩擦係数および運動状態で働く動摩擦係数がある。一般に、動摩擦係数は静摩擦係数より小さい。
- 摩擦係数に影響する要因
- 動摩擦係数に影響する要因としては、次のような事項がある。
- 1) 水の付着:雨水などが付くと摩擦係数は極端に小さくなる。
- 2) パッド材質:パッドの材質によって摩擦係数が変わる。水が付いても摩擦係数の低下が少ない材質もある。しかし難点は乾燥状態では逆に摩擦係数が小さくなること。そこで、水に対して摩擦係数が大きい材質のパッドと乾燥状態で摩擦係数の大きい材質のパッドを前後に並べてたシューもある。
- 3) リム材質:相手のリムの材質によって摩擦係数は変わる。水が付いた時の摩擦係数は、鋼製リムはアルミ製リムより小さい。
- 4) 速度:相対速度が大きいほど摩擦係数は小さくなる。早く走ると相対速度は大きくなる。リムはローターより大きいため、相対速度は大きくなる。
- 5) 面圧:面圧が大きいほど摩擦係数は小さくなる。パッドを大きくすると、面圧は低下する。ローターはパッドを大きくできる。
- 6) 温度:一般に温度が高くなるとパッドの摩擦係数は低下する。そのため、下り坂で連続してブレーキを掛けると、パッドとリムまたはローターとの摩擦熱で温度が上がり、ブレーキの利きが悪くなる。 ローターが大きいと放熱効果も大きい。
- 制動トルク
- ブレーキの制動性能は、制動トルクなどで決まる。リムブレーキは大きなディスクブレーキと考えることもできる。車輪の軸芯から、パッドの中心線がリムまたはディスクに当たる部分までの距離(回転半径 rb)が大きいほど制動トルクは大きくなる。従って、制動力が同じでもリムまたはディスクが大きいほど、制動トルクは大きくなる。タイヤと路面間の摩擦力は、上記の回転半径 rb とタイヤ半径 rt の比 rb/rt に比例する。
前輪と後輪のブレーキの効きの違い
前後輪のブレーキの効き具合を比較すると、後輪は前輪より大きい人体荷重の配分があるので、後輪のブレーキが良く効くように思われる。しかし、現実は前輪のブレーキが良く効く。これは人体および自転車の慣性が影響しているため。
前輪と後輪のブレーキのかかり方の違いは、次のようにすると良く分かる。自転車の横に立ち、ハンドルの左右の握りを両手で持って自転車を押して早足で歩く。前輪および後輪にブレーキをかける。前輪が後輪よりブレーキの効きが良いことが実感できる。
後輪は地面を滑るかまたは地面から持ち上がる。この前後輪のブレーキの効きの違いは、自転車の慣性(自転車に乗っている時は人体および自転車の慣性)によって生じる。ブレーキがかかっても、自転車は慣性で前へ行こうとする。そのため、前輪は地面に押し付けられブレーキの効きが良いのに対し、後輪は前輪の接地点を支点にして持ち上がろうとするので効きが悪い。
自転車を後に押してブレーキをかけると逆の現象が起きる。つまり、前輪は滑るかまたは持ち上がる。前輪は実質的には後輪となっているため。
参考資料:前後ブレーキ力比 計算器
フェード
ブレーキパッドとリムまたはブレーキディスクとの間の摩擦力が低下し、ブレーキの効きが悪くなることはフェード(パッドフェード、ブレーキフェード)と呼ばれる。摩擦熱によりパッドの温度が上昇して、摩擦係数が低下することが原因。
その原因としては、次の3つの現象がある。
- パッドの摩擦係数は温度によって変わり、ある温度を超えると温度の上昇と共に急速に低下していく。
- パッドが高温になると、パッドの表面が溶け、その潤滑作用で摩擦係数が低下する。
- 高温によりパッドの揮発性物質が蒸発し、その蒸気薄膜の上を滑るため、摩擦係数が低下する。
左右のレバーと効き車輪
左側通行の国(日本および英国など)は左手(左側のブレーキレバー)で後輪のブレーキをかけ(右前)、右側通行の国(米国など)は右手(右側のブレーキレバー)で後輪のブレーキをかけるようになっている(左前)。
これは、後輪のブレーキを主ブレーキと考え、自動車走行側の手を合図に使うことを前提にしているため。しかし、後輪ブレーキより前輪ブレーキの効きが良いので、主ブレーキは前輪ブレーキと考えるのが正しい。ただし、集団直線走行などは、緩やかにブレーキをかける必要があるので、後輪のブレーキのみを使う。
- [参考]ブレーキレバー位置に関する規格
- 日本(JIS):「ブレーキレバーは、一般に、前ブレーキ用をハンドルの右、後ブレーキ用をハンドルの左に配置する。」(「JIS D9301 一般用自転車」)
- 米国(CPSC):「後ブレーキを操作するレバーは右ハンドルに付けること。前ブレーキを操作するレバーは左ハンドルに付けること。」(CPSC 16CFR1512)
タイヤのロック
ブレーキのかけ過ぎにより、タイヤ(車輪)の回転が停止することは、ロックと呼ばれる。
前輪がロックすると、操縦性がなくなる。曲がろうとすると横方向の力が働くため、摩擦力が小さいと、前輪のタイヤが滑ってハンドルがきかない。
曲がっている時に後輪がロックすると、横滑りする。曲がっている時は横方向の力が働いているので、摩擦力が小さくなると横に滑る。
ロックするかどうかは、主にブレーキ力およびタイヤと路面の摩擦力の兼ね合いで決まる。ブレーキ力が大きく摩擦力が小さいと、ロックを起こす。Vブレーキおよびディスクブレーキのような利きの良いブレーキは、相対的にロックを起こしやすい。
後輪の摩擦力が小さくなる原因としては、制動と慣性による後輪の荷重の減少がある(前記)。
前後輪の摩擦力が減少する原因としては、路面の水濡れ、凍結および土砂による汚れなどがある。
摩擦力が小さい時は、ブレーキ力も減らして、ロックしないようにする。ブレーキをかけることは、タイヤの回転を止めること(ロック)ではなく、回転を落とすこと。自転車は直ぐには止まれず、止まるまでに制動距離を必要とする。
タイヤのスリップ
タイヤは常に路面に対して滑っている(スリップしている)。その指標として、タイヤのスリップ(すべり)率がある。スリップ率は次式で表される。
スリップ率 = 100 x (車速 - 輪速)/車速
同式の車速は走行速度そして輪速はタイヤの外周速度。滑りが無い場合はスリップ率=0%そしてタイヤがロック(回転停止)して完全に滑っている場合はスリップ率=100%となる。スリップ状態では車速と輪速に差(同式の分子)が生じる。車速と輪速が等しい時は、(車速 - 輪速) は零となり、スリップ率も零となる。タイヤがロックすると輪速は零となり、車速/車速=1より、スリップ率は100%となる。
実験データなどにより、スリップ率と摩擦力の関係を見ると、スリップ率が零の時は摩擦力も零で、スリップ率が大きくなるにつれて摩擦力も大きくなる。ブレーキ操作のとき、スリップ率が10~20%のとき摩擦力(タイヤの制動力)は最大となる。従って、スリップ率が15%前後となるようにブレーキ力を加えることができれば、制動力は最大となる。
これよりスリップ率が大きくなるにつれ、摩擦力は減少していく。
定常走行の時も、その駆動摩擦力に対応して、タイヤはスリップしている。そのスリップ率は1%以下と思われる。このスリップによりタイヤは磨耗する。後輪は駆動しているため、摩擦力従って滑りは前輪より大きい。そのため、後輪のタイヤ磨耗は前輪より早い。加速の時は大きな駆動力(摩擦力)が必要なので、スリップ率も大きくなる。
制動距離
走っている自転車は運動エネルギーを持っており、制動によってエネルギーが吸収されて止まる。運動エネルギーは速度の2乗に比例して大きくなるため、走行速度が速いほど運動エネルギーは大きく制動距離は長くなる。 吸収されたエネルギーは熱となるので、ブレーキパッドおよびリム又はディスクなどの温度は上がる。
この温度上昇は長距離の坂で連続してブレーキを掛けるときは問題になることがある。具体的な制動距離は「制動距離計算器」で計算できる。
ブレーキ アーム比
ブレーキレバーおよびブレーキキャリパーにはてこの原理が使われており、その効果はアーム比で表される。アーム比はメカニカル アドバンテッジとも呼ばれる。アーム比は移動距離の比と等しい。
- ブレーキレバーのアーム比
- その支点からレバー中央部までの垂直距離 a と支点からロープまでの距離 b の比 a/b はアーム比 r となる。式で表すと、
- r = a/b
- キャリパーのアーム比
- その支点からロープまでの垂直距離 a と支点からシュー中心線までの距離 b の比 a/b はアーム比 r となる。
- r = a/b
リムブレーキの種類(キヤリパー、カンティおよびV)の大きな違いは、アーム比の違いと考えてよい。キヤリパー、カンティ(カンチ)およびVの順にアーム比が大きい。
アーム比が大きいことはブレーキが良く効くということであるが、反面効きすぎてなめらかには止まらないということでもある。
アーム比が大きいほど、ブレーキレバーの動きに対してシューの動きが小さくなる。そのため、パッドとリムのすき間(パッド隙間)は、小さくせざるを得ない。すき間が小さいと、オフロードでは泥詰まりの問題が生じる。
下表にブレーキのキャリパーのアーム比の目安(メーカーにより異なる)を示す。
1軸キャリパー | 1 |
---|---|
デュアルピボット | 2 |
カンティ | 3 |
V | 4 |
同表の1,2,3,4の数字はNo.ではなく、アーム比。
カンティブレーキはロープが引く方向とキャリパーが動く方向が異なっているため、その伝達効率を掛けると、実質的なアーム比はデュアルピボットブレーキより小さい。
アーム比計算器
次にブレーキのレバーおよびキャリパーのアーム比(メカニカル アドバンテッジ)を求めるアーム比計算器を示す。
- ブレーキレバーアーム比
- 支点と中指の距離および支点とロープの距離を半角数字で入れて、[計算]を押して下さい。
- キャリパーアーム比
- 支点とロープ間の距離および支点とシュー間の距離を半角数字で入れて、[計算]を押して下さい。
アーム比(てこ比)が出ます。
- 計算例
- Vブレーキの支点ロープ間距離が95mmで支点シュー間距離が25mmの場合、アーム比(てこ比)は3.8。従って、てこの原理によりロープがキャリパーを引く力の3.8倍の力(キャリパーの機械利得)で、パッドはリムを押す。
シュー外内回転半径比
ブレーキシューは、キャリパーの支点を中心とした円弧運動をするので、この円弧の半径を回転半径と呼ぶ。ブレーキシューの回転半径が小さいと、シューの外側と内側の半径比(外内回転半径比)が大きくなる。外内回転半径比が1より大きい程、シューとリム間の平行移動性が悪いこと及びシュー外側と内側ではリムの締め付け力が異なる(均一性がない)ことを意味する。
下表にシュー外内回転半径比の目安(メーカーにより異なる)を示す。
1軸キャリパー | 1.2 |
---|---|
デュアルピボット | 1.3 |
カンティ | 1.35 |
V | 1.4 |
外内回転半径比を1.0にするには、平行四辺形リンクによってパッドをリムに平行移動させることにより、回転半径を見かけ上無限大にする必要がある。
次にシュー外内回転半径比を求める計算器を示す。
シュー中心の回転半径およびシューの幅を半角数字で入れて、[計算]を押して下さい。シュー外内回転半径比が出ます。
- 計算例
- シューの回転半径が50mmでシューの幅が10mmの場合、外内回転半径比は1.22。
ピッチオーバー
何らかの原因で前輪が停止して、慣性で人が前方に転倒すること。前輪停止の原因としては、外れたスポークや外れた泥よけの前輪との噛み込みなどの事故がある。前輪のブレーキ操作によって自転車を瞬間的に停めることはできないので、ブレーキ操作でピッチオーバーを起こすことはない。